大髻おおたぶさ)” の例文
露八は、どこで工面して来たのか、坊主頭に大髻おおたぶさかつらをかぶって、大小をたばさみ、白緒の草履で、りゅうとしてやって来たのであった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年齢とし三十五六にして色白く、鼻筋通り、口元の締った眉毛の濃い、青髭の生えた大髻おおたぶさで、二十日も剃らない月代頭さかやきあたまでございます。
突き袖かなんかしやがって、武士たる者が不用心ななりで女郎買なんかに行くから、命から二番目の大髻おおたぶさを切られるのさ。
総髪の大髻おおたぶさに髪を結い、黒の紋附きに白縞袴を穿いた、わたしの見知らないお侍様が凛々りりしい重みのある澄んだ声で、そう捕吏たちに云いました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
赤茶けた髪を大髻おおたぶさに取り上げて、左眼はうつろにくぼみ、残りの、皮肉に笑っている細い右眼から口尻へ、右の頬に溝のような深い一線の刀痕がめだつ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その前後に二人の鬚武者ひげむしゃが立ちはだかっていた。二人とも笠は持たず、浪人らしい古紋付に大髻おおたぶさ裁付袴たっつけばかまである。無反むそりの革柄かわづかを押えている横肥りの方が笑ったらしい。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主水はもう二人の子持ちで、大髻おおたぶさに結っていたころのような水の垂れるような美少年ではない。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
見ますとね、下の店前みせッさきに、八角の大火鉢を、ぐるりと人間のいわのごとく取巻いて、大髻おおたぶさの相撲連中九人ばかり、峰をそばだて、谷をひらいて、湯呑ゆのみあおり、片口、丼、谷川の流れるように飲んでいる。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……見ると大髻おおたぶさの若衆頭、着物は木綿物では有りまするが、生れ付いての器量しで、芝居でする久松の出たようです。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほうきのような赭茶あかちゃけた毛を、大髻おおたぶさにとりあげ、右眼はうつろにくぼみ、残りの左の眼は、ほそく皮肉に笑っている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
新九郎はこの寮へ来てから、髪も伸びるままにしていたのを、今朝、御方が鏡台を出して、前を五分月代に、後ろの切下げを折り大髻おおたぶさに結い直してくれたのである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらを尾行けて来たかのように、忍び足して歩いて来、その時側の木立の蔭へ、身を隠して腕組みをし、こっちを見ている大髻おおたぶさの武士へチラリと視線を投げやった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
髪は白元結もとゆいできりりと巻いた大髻おおたぶさで、白繻子しろじゅすの下着に褐色無地の定紋附羽二重じょうもんつきはぶたえ小袖、献上博多白地独鈷とっこの角帯に藍棒縞仙台平あいぼうじませんだいひらの裏附のはかま黒縮緬くろちりめんの紋附羽織に白紐しろひもを胸高に結び
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あいも変わらぬ天下御免ごめんの乞食姿、六尺近い体躯に貧乏徳利びんぼうどくりをぶらさげて、大髻おおたぶさわらで束ねたいでたちのまま。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
桜場清六のほうは、赭ら顔の大髻おおたぶさ。眼尻が吊しあがって、いかにも険相な面構えなのに、黒木屋五造は、色白のおっとりとした丸顔で、田舎の大店の若旦那にふさわしいようす。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大髻おおたぶさに黒紋付、年恰好は二十五六、筋肉逞しく大兵肥満、威圧するような風采である。小兵で痩せぎすで蒼白くて商人まる出しの京伝にとっては、どうでも苦手でなければならない。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
道楽旗本だから髪も大髻おおたぶさではなく、小髷こまげで、びんがうすいので、ちょっと見ると、八丁堀に地面をもらって裕福に暮らしている、町奉行支配の与力よりきに似ているところから
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時往来の反対むこうの方から、一つの人影が近付いて来た。月光が肩にこぼれていた。浪士風の大男であった。大髻おおたぶさに黒紋付き、袴無しの着流しであった。しずしずこっちへ近寄って来た。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、煙突掃除みたいな大髻おおたぶさのあたまをかかえて、長火鉢の猫板に左膳の肘を突き、筆といっしょに顎をささえて一つッきりの眼をしかめ、ウンウンうなってるところは、まことに珍妙な図。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
総髪の大髻おおたぶさ、紋付きの衣裳に白袴、色白の好男子であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大髻おおたぶさの乱れ髪が、蒼白い額部ひたいに深い影を作り、ゲッソリ痩せた頬。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伊賀袴を穿いた大髻おおたぶさの中年の一人がこう云うと
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
髪は総髪の大髻おおたぶさで、もとどりの紐は濃紫こむらさきであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると、大髻おおたぶさがガクガクゆらぐ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)