可羨うらやま)” の例文
水入らずで、二人でこうして働いている姉夫婦の貧しい生活が、今朝のお島の混乱した頭脳あたまには可羨うらやましく思われぬでもなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お俊ちゃんの旦那さんは大層好い方だそうですネ」とお雪は豊世と一緒に写真を見ながら、「お俊ちゃんは真実ほんと可羨うらやましい」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また一柳かい。いや、それにしても可羨うらやましいな。魂を入かえたいくらいなもんだ。——もっとも、魂はどこへ飛んだか、当分わからないから、第一その在処ありか
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「清葉が、頬摺ほおずりしたり、額を吸ったり、……抱いて寝るそうだ。お前、女房は美しかったか、綺麗な児だって。ああ、幸福しあわせな児だ。可羨うらやましいほど幸福こうふくだ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
死んだかみさんの衣裳いしょうが、そっくりそのまま二階の箪笥に二棹ふたさおもあると云うことも、姉には可羨うらやましかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「『真実ほんとに、叔母さんは可羨うらやましい』なんて、豊世さんはそんなことを言って帰りましたっけ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はそれが可羨うらやましい。いぬの子だか、猫の子だか、掃溜はきだめぐらいの小屋はあっても、縁の下なら宿なし同然。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でも、男の人の方が可羨うらやましい。二度と女なんかに生れて来るもんじゃ有りません」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お島は可羨うらやましそうにその後姿を見送りながら、主婦かみさんに言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
弟は可羨うらやましい、あんな大きななりをして、私に甘ったれますもの。でも、それが可愛くって殺されない。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲板の上には汚れた服を着た船員が集つて、船の中で買食でもする外に歡樂たのしみも無いやうな、ツマラなさうな顏付をして、上陸する人達を可羨うらやましげに眺めて居た。漸く艀が來た。吾儕も陸へ急いだ。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのまたかたうたら一通ひととほりでなかつたので、くやら、うめくやら、大苦おほくるしみで正體しやうたいないものかへつて可羨うらやましいくらゐ、とふのは、たしかなものほど、生命いのちあんじられるでな、ふねうぐつとかたむたび
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ、そいつは可羨うらやましい。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある時も、田圃たんぼのちょろちょろ水で、五六人、目高をすくっているのを見ると、可羨うらやましさが耐えられないから、前後あとさきわきまえず、すそを引上げて、たもとゆわえて、わたいも遊ばして下さいな、といってながれに入った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)