几帳きちやう)” の例文
板敷の間に七八床畳とこだたみを設けて、七九几帳きちやう八〇御厨子みづしかざり八一壁代かべしろの絵なども、皆古代こだいのよき物にて、八二なみの人の住居ならず。
が、蝶鳥てふとり几帳きちやうを立てた陰に、燈台の光をまぶしがりながら、男と二人むつびあふ時にも、嬉しいとは一夜も思はなかつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
部屋から部屋、廊下から廊下を過ぎて、奧の一と間に近づいた平次は、漸く大合唱の湧き起る場所を突き留めて、几帳きちやうをかゝげて、そつと覗きました。
几帳きちやうのかげに、長い髮に香をきしめさせてゐるのもある。鬢上びんあげをしたまま煙草をくゆらしてゐるのもある。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
几帳きちやうとも、垂幕さげまくともひたいのに、うではない、萌黄もえぎあを段染だんだらつた綸子りんずなんぞ、唐繪からゑ浮模樣うきもやう織込おりこんだのが窓帷カアテンつた工合ぐあひに、格天井がうてんじやうからゆかいておほうてある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ライラックの枝花模樣の更紗さらさの服を着て、兩耳の上に几帳きちやう面な捲髮を垂れたフィービ孃は、『エイブラム師』に叮嚀に會釋ゑしやくをし、チエスタ孃に向つて、儀式張つて捲髮を振つた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
この入りつる格子はまださねば、ひま見ゆるによりて西ざまに見通し給へば、このきはにたてたる屏風も、端のかたおし畳まれたるに、まぎるべき几帳きちやうなども、暑ければにや打掛けて
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐつすりと寢込ねこんでた、仙臺せんだい小淵こぶちみなとで——しもつきひとめた、とし十九の孫一まごいちに——おもひもけない、とも神龕かみだなまへに、こほつた龍宮りうぐう几帳きちやうおもふ、白氣はくき一筋ひとすぢつきいて
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
顔の後にほのめいてゐるのは、鶴を織り出した几帳きちやうであらうか? それとものどかな山の裾に、女松めまつを描いた障子であらうか? 兎に角曇つた銀のやうな、薄白いあかるみが拡がつてゐる。……
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)