ちゅう)” の例文
人と自然と、神の創造つくり給える全宇宙が罪の審判のために震動し、天のはてより地のきわみまで、万物呻吟しんぎんの声は一つとなって空にちゅうする。
露の深い路地、下水に半分身を落して、乙女の身体は斜に歪み、もすそくれないと、蒼白くなったはぎが、浅ましくも天にちゅうして居るのです。
赤、黒、黄褐色の凄まじいほのおが天にちゅうし、艦体諸物の破片は四方に飛び散って高く天空に舞い上り、艦はたちまち右舷九度ばかりも傾斜した。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
天にちゅうする光煙、地を這いまわるほのお、火の子は雨と飛び、明々の灼気しゃっき風と狂って本陣いわし屋の高楼いまは一大火災の船と化し終わった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今でも時々噴火をするが、浅間山あさまやま阿蘇山あそさんのように、大爆発をして、噴煙が天にちゅうし、数百マイルのかなたまで灰を降らすというようなことは決してない。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
やがて、砂丘の向うが、っと明るくなったと思うと、天にちゅうした、光の帯が倒れるように落ちかかってきた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかし人目を離れて二人っきりの世界になると、慎恚しんいのほむらは天にちゅうするかと思われ、相手の兇手きょうしゅから脱れるために警戒の神経を注射針のようにとがらせた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新聞の写真が過去に於てそうであったように、噴火といえば黒煙天にちゅうするものだと思っていましたね。
その時分にはじめて、人の叫喚がおびただしく聞えはじめました。ボーッと明るかったに過ぎなかった火が、炎のうらを見せはじめると、その赤味が天にちゅうして来ました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
火焔は天にちゅうし、草木に燃えうつって、黒煙は土をおおい、張郃の兵は山中を逃げまどったが、森林地帯ではあり、思うに任せず、遂に一人も残らず焼死してしまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かさねて打っ違えたような、むくむくと鱗形をした硫煙が、火孔から天にちゅうしたかとおもうと、山体は渋面をつくって、むせッぽい鼠色に変化した、スケッチをしていた人は
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
(喧嘩の夢を見て、寐惚ねとぼけたんだよ。)とばかりお夏は笑っていたが、喧嘩の夢どころではない、殺人の意気天にちゅうして、この気疾きばやの豪傑、月夜に砂煙すなけむりいて宙を飛んだのであった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天にちゅうする火柱と眉をくような火気に面を撃たれたのである、眼がくらんでよろめくかれを誰かが支えた、「俊恵さま早く、早く……」そう叫びながら、その手はかれをき抱くようにした
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時分の文学的覇心はしんは殆んど天にちゅうする勢いであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「天にちゅうする濛気もうきでございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
途端にシューッという激しい音響が、林の中の空気を震動させた。と同時に、真青な火は一時に大きく拡がって、どッと天にちゅうした。火柱だ、大火柱が立ったのであった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日の天にちゅうするほど、いよいよ物寂しい景色、昨夜の物好きなグロテスク人種以外には、白昼といえども、誰あってこんなところまで足を踏み入れるはずはないのだから
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足のつまずくおそれがない、白檜しらべも現われて来た、痩せ細って、痛々しい、どこを見ても、しッとりした、濡れたような、温味がない、日は天にちゅうして、頭の直上に来ているが
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
刃火のほのおと燃えて天にちゅうするところ、なんの鳥か、一羽寒ざむと鳴いて屋根を離れた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天にちゅうする火焔は、もうその下に充満している敵兵の絶対的な勢力を思わせた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天にちゅうする火焔の中に、高田御殿は微塵みじんに崩れ落ちてしまいました。
ターネフ首領たちは、その時刻、全市にきおこる連続爆音と天にちゅうする幾百本の大火柱だいひばしらを見んものと、三階の窓ぎわで酒をのみながら、時刻の来るのを、たのしげに待っていたのである。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
爆雷は天にちゅうし、木という木、草という草、燃え出さないものはなかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガラッ八は親分の考えを測りかねて、長いあごを天にちゅうさせます。
真黄色な煙を濛々もうもうと中空に曳きながら、頭部をグッと下に下げると、アレヨアレヨといううちに、矢追村の南に真黒な海水をたたえている大戸神灘おおとがみなだの真只中に、天にちゅうする水煙と共に落下し
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)