今人こんじん)” の例文
いわんや後進は先進にまさるべき約束なれば、いにしえを空しゅうして比較すべき人物なきにおいてをや。今人こんじんの職分は大にして重しと言うべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
故に俳句は一般にもてあそばるるが故に美ならず、下等社会に行はるるが故に不美ならず。自己の作なるが故に美ならず、今人こんじんの作が故に不美ならず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
客の小山さえ妻の勧告をよろこばぬ色あり「中川君、文明流の台所もいいが器物を買うのにかねがかかって困るよ」と今人こんじんは誰もよくこの愚痴ぐちを言う。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし今人こんじんは(この今人と云ふ言葉は非常に狭い意味の今人である。ざつと大正十二年の三四月以後の今人である)
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
反対に古人が或観念を以て臨み、今人こんじんはかえって無関心なものもある。時代趣味の上からいろいろ対照して見たら、存外面白い結果になるかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
今人こんじんは今人のみ、古人ののりに従ふを要せずと。もつともの事なり。後人こうじんまたく言はんか、それも尤もの事なり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
古人こじん燭をとって夜遊ぶさ。今人こんじんの僕はこんな遊びをしている。あくどい、刺戟の強い、殺人淫楽的の遊びを!
鴉片を喫む美少年 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
古人のまゆひそめて淫書となせしもの、今人こんじん見て必しも然りとなさざるものあり。今人の世に害ありとなすもの、将来において果して然るや否や知るべきにあらず。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とうてい今人こんじんの想像の及ばぬところであるから、素肌すはだに麻を着て厳冬を過したとしても不思議はないが、これ以外に多分は獣皮なども取り添えられたことと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
実に旧約聖書はその歴史部を終えて教訓部に入るや、劈頭第一に異邦の地名を掲げ、異邦人ヨブの実験を語らんとするのである。これ真に今人こんじんの驚異にあたいすることである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
今までの光輝がわがそうの頭上にかがやき、香気が我らの胸にせまって、そして今人こんじんをして古文明を味わわしめ、それからまた古人とは異なった文明を開拓させるに至るのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それも古人なり今人こんじんなりの句集をごらんになったらすぐお判りになります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かくの如く人は皆これを難しとする所に向つて、独り蕪村は何の苦もなく進み思ふままに濶歩かっぽ横行せり。今人こんじんはこれを見てかへつてその容易なるを認めしならん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
維新いしんの頃より今日に至るまで、諸藩の有様は現に今人こんじん目撃もくげきするところにして、これをしるすはほとんど無益むえきなるにたれども、光陰こういん矢のごとく、今より五十年を過ぎ
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それを裏から言うと、この今人こんじんから敬して遠ざけられているものの中に、かつてはさしも痛切であった人生の断片が、もう忘却せられて封じ籠められているのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし日本の歴史小説には、いまだこの種の作品を見ない。日本のは大抵たいてい古人の心に、今人こんじんの心と共通する、云はばヒユマンなひらめきをとらへた、手つ取り早い作品ばかりである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今人こんじんの智能古人に比して劣れるが故か。はたまた時勢のわざわいするところか。わたくしは知らない。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
特に牽牛織女けんぎゅうしょくじょの二星を連想し、今人こんじんは無数の星群としてこれを観ずる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
故にいわく、多妻多男の法は今世こんせいを挙げて今人こんじん玩弄物がんろうぶつに供するの覚悟なれば可なりといえども、天下を万々歳の天下として今人をして後世に責任あらしめんとするときは
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かくのごとく人は皆これを難しとするところに向って、ひとり蕪村は何の苦もなく進み思うままに濶歩かっぽ横行せり。今人こんじんはこれを見てかえってその容易なるを認めしならん。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この狂言書卸かきおろしの事とて稽古に念を入れし事到底今人こんじんの思ひも及ばぬ処なるべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
古人は今を知らずして、当時の事物を便利なりと思いしことにて、今人こんじんもまた今後を知らずして、今を安楽と思うのみ。また近くこれをたとうれば、かの煙草を喫する者を見よ。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その博識なるは今人こんじんの及ぶところにあらず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)