亀鑑きかん)” の例文
旧字:龜鑑
考えて見たまえな、名誉だの、品性だの、上流の婦人の亀鑑きかんだのと、ていい名は附けるものの、何がなし見得坊なんじゃあないか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上、御加増だの嫁の口の話だのに多忙になって、武士の亀鑑きかんだなどとそやされたひには、穴にでもはいりたくなりはしないか。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は敏子を怒らせるのが少し面白くなって来たので、幾分感情を誇張した気味もあった。「ママは貞女の亀鑑きかんというわけね」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いかに阿呆あほうを装っても、もう誰一人葉之助をおろか者とは思わなかった。彼は高遠一藩の者から、偶像とされ亀鑑きかんとされた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
已に数百年間武士道を以て一般国民道徳の亀鑑きかんとして町人百姓さえあるいは義経、あるいは弁慶、あるいは秀吉
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「いずれも皆忠臣の亀鑑きかん、真の日本男児じゃ、ああこの人達があればこそ日本は万々歳まで滅びないのだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それは汚れた台所から美の玉座についたのである。数銭のものが万金に換えられたのである。省みだにされなかったものが、美の亀鑑きかんとして仰がれるのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
天智天皇と藤原鎌足のような君臣の一生的の結びは彼の漢の高祖や源頼朝などの君臣の例と比べて如何に美しく、乃木夫妻のようなのは夫婦の結びの亀鑑きかんである。
人生における離合について (新字新仮名) / 倉田百三(著)
捕えられてシベリアに送られ、終身懲役の刑で監獄に幽閉された彼は、キャベツだるに身をひそませて、脱獄に成功した。その大胆不敵は俺たちの亀鑑きかんとされていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ましてや世の亀鑑きかんたるべき旗本中にかかる不埓者ふらちものめが横行致しおると承わっては、同じ八万騎の名にかけて容赦ならぬ。いかにも身共、御所望の品々御用立て仕ろうぞ
なお屈せずに敵を罵って死んだのは有名の史実で、彼は世に忠臣の亀鑑きかんとして伝えられている。
妊婦の教育は非常に大切で、立派な子供を生もうと思えば、妊娠中に、自分の崇拝している人物のことを常に念頭において、その人を亀鑑きかんとして精神修養を怠ってはならない。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ただし宗五郎の伝は俗間に伝わる草紙の類のみにて、いまだそのつまびらかなる正史を得ず。もし得ることあらば他日これを記してその功徳を表し、もって世人の亀鑑きかんに供すべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
昔はベンジャミン・フランクリン、自序伝をものして、その子孫のいましめとなせり。操行に高潔にして、業務に勤勉なるこの人の如きは、まことに尊き亀鑑きかんを後世にのこせしものとこそ言うべけれ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
おのれを知るもののために死す。しん予譲よじょうです。やはり忠臣の亀鑑きかんです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれども、成功者すなわち世の手本と仰がれるように、失敗者もまた、われらの亀鑑きかんとするに足ると言ったら叱られるであろうか。人の振り見てわが振り直せ、とかいうことわざさえあるようではないか。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
津陽しんよう開記』、『御系図ごけいず三通』、『歴年亀鑑きかん』、『孝公行実こうこうぎょうじつ』、『常福寺由緒書ゆいしょがき』、『津梁しんりょう院過去帳抄』、『伝聞でんぶん雑録』、『東藩とうはん名数』、『高岡霊験記たかおかれいげんき』、『諸書案文あんもん』、『藩翰譜はんかんぷ』が挙げてある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
原註1 一六二二年発行、ピーチャム著「紳士亀鑑きかん」。
義光よしてる殿のご子息の筈、お父上のお見事なるご最期さいごは敵軍の中にまぎれ入り、この眼にてさっき方見申してござる! ……忠義の亀鑑きかん、武士の手本
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「平時ならば、人の亀鑑きかんともいわれる士大夫を、いかに勝敗の中とはいえ、はずかしめるにしのびない」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の亀鑑きかんともなるべき徳を備えた貴婦人顔をしようとするから、痩せもし、苦労もするんです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「奥様は婦人の亀鑑きかんさ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「うむ、その意味が解らぬそうな。それでは一つ例を引こう。武士の亀鑑きかん大石良雄は昼行灯ひるあんどんであったそうな」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ああ、この創痕きずあとの一つ一つがみな汝の忠魂と義心を語っている。みなも見よ。武人の亀鑑きかんを」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無私忠純の亀鑑きかんを示そうとした彼の気もちは表の辞句以外にもよくあらわれている。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)