丸善まるぜん)” の例文
私は半日を丸善まるぜんの二階でつぶす覚悟でいた。私は自分に関係の深い部門の書籍棚の前に立って、隅から隅まで一冊ずつ点検して行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ソンナものを写すのは馬鹿馬鹿しい、近日丸善まるぜんから出版されるというと、そうか、イイ事を聞いた、無駄骨折むだぼねおりをせずとも済んだといった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
少なくとも「復活」だけは丸善まるぜんからでも取り寄せて読んでいただきたい、あなたを啓発する事が必ず多いのは請け合いますから。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
生活がまだ蝕まれてゐなかつた以前私の好きであつた所は、例へば丸善まるぜんであつた。赤や黄のオードコロンやオードキニン。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
ところが、昨年の夏であったか、ある日丸善まるぜんの二階であてもなくエヴリーマンス・ライブラリーをあさっているうちに
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのなかでも、とうさんにれられて震災前しんさいまえ丸善まるぜんったときってもらって人形にんぎょうは、一番いちばんながくあった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現在の丸善まるぜんの仕事が昔はどういうふうに行なわれたかを見るために、ここに『東征伝』を抄録する。——
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ところが電車に乗っているあいだに、また気が変ったから今度は須田町すだちょうで乗換えて、丸善まるぜんへ行った。行って見るとちんを引張った妙な異人の女が、ジェコブの小説はないかと云って、探している。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何處をどう歩いたのだらう、私が最後に立つたのは丸善まるぜんの前だつた。平常あんなに避けてゐた丸善が其の時の私にはやす々と入れるやうに思へた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
とうさんは、袖子そでこのために人形にんぎょうまでも自分じぶん見立みたて、おな丸善まるぜんの二かいにあった独逸ドイツ出来でき人形にんぎょうなかでも自分じぶんったようなものをもとめて、それを袖子そでこにあてがった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
オリジナルは児童用の粗末な藁紙わらがみノートブックに当時丸善まるぜんで売っていた舶来の青黒インキで書いたものだそうであるが、それが変色してセピアがかった墨色になっている。
かつ、この小説は露西亜の近代の最大傑作で、何でもこの頃丸善まるぜんへ英訳が来ているそうだといった。その翌日、私は早速丸善へ行って、果して一冊あったのを直ぐ買取った。
「学者ぢやないけれど、金どんはあんまり生物識なまものしりを振まはすから、丸善まるぜんぢや学者つて綽名あだながついてゐるんだよ。だから警察でも大学教授や何かの同類だと思つて、生埋めにしてしまつたのさ。」
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
子供の時分から「丸善まるぜん」という名前は一種特別な余韻をもって自分の耳に響いたものである。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あれは独逸ドイツほうから新荷しんにいたばかりだという種々いろいろ玩具おもちゃ一緒いっしょに、あの丸善まるぜんの二かいならべてあったもので、異国いこく子供こども風俗なりながらにあいらしく、格安かくやすで、しかも丈夫じょうぶ出来できていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あれは丸善まるぜんきんどんのおつかさんだよ。」
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
偶然丸善まるぜんから取り寄せた「近世美術」を見たら、その中にロージャー・フライという人がこの花を主題にして描いた水彩があったのでそれがわかった。この絵に付した解説にこんな事が書いてある。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)