不羈ふき)” の例文
それリベルテーの語はこれを訳して自主、自由、不羈ふき独立等といふ。しかれどもその意義の深微に至りてはこの数語の能く尽す所にあらず。
白皙はくせきかんの強そうな顔、大股にさっさと歩く身ごなしなど、いかにも我儘わがままな、不羈ふき奔放そのものといった風格が感じられる。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平時の荷抜き、喧嘩まぎれの掠奪、放火、暴行、私刑のやりくちなど、やはり不羈ふきの民たることは争えない。——だから、これを呼ぶに、時の人は
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ文学の世俗と競はず年歯とかかはらず不羈ふき自在にしてごうも他の束縛を受けざる処において独り自ら慰むるのみ。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
独立不羈ふき、神を神とも思わず、ダメス王の鼻はこうして遂に神の法廷を威圧してしまいました。その答弁は一つ一つに諸神を驚かすばかりでありました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唱歌学校ジングアカデミーの合唱長としての二年間は、不羈ふきなブラームスとしてはむしろ不思議ふしぎに落着いた仕事であると言ってよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
不羈ふきな女を描くとき、それは「夢十夜」などのようなヨーロッパを背景とするロマンティックな空想の世界であったというのは、何と興味ある事実であろう。
乞食を三日すると忘れられない、と言うけれども、淪落の世界も、もし独立不羈ふきの魂を殺すことが出来るなら、これぐらい住み易く沈淪し易いところもない。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これは、ベートーヴェンの性格にあるつよ不羈ふき性やその他本来ドイツ的でない他のいろいろな彼の性質を理解しようとするとき忘れてはならないことである。
要するに西鶴が冷静不羈ふきな自分自身の眼で事物の真相を洞察し、実証のない存在を蹴飛ばして眼前現存の事実の上に立って世界の縮図を書き上げようとしている点が
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
子路が他の所ではあくまで人の下風に立つを潔しとしない独立不羈ふきの男であり、一諾千金いちだくせんきんの快男児であるだけに、碌々ろくろくたる凡弟子然ぼんていしぜんとして孔子の前にはんべっている姿は
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
讃岐さぬき高松の城主生駒壱岐守に、不羈ふき不行跡の数々があったために、その所領十七万石を没収されて、出羽でわの由利矢島に配流された事実は、つい最近のことだったからです。
今日まで神秘になっている何かの過程プロセスとか、種族の混合とかいう方法によって、一しきり陣痛に悩んだ後、たとい千人に一人でも、独立不羈ふきの精神をもった人間を生み出す
夫人の華麗奔放、放縦不羈ふきの生活を伝聞してゐた人々は、新聞の報道を少しも疑はなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
自分らごときは他人の異見を待たずに、不羈ふき独立して大和魂やまとだましいを堅め、善悪邪正と是非得失とをおのが狭い胸中に弁別し、根本の衰えないのを護念して、なお枝葉の隆盛に懸念けねんする。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
九万ハ性放誕不羈ふき嗜酒任侠ししゅにんきょうややモスレバすなわチ連飲ス。数日ニシテ止ムヲ知ラズ。ヤヽ意ニ当ラザレバすなわチ狂呼怒罵どばシテソノ座人ヲ凌辱りょうじょくス。マタ甚生理ニつたなシ。家道日ニ日ニくるシム。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毒竜のうろこまとい、爪はいだき、つのは枕してもいささかも貴女の身はきずつけない。ともにこの鎧に包まるる内は、貴女は海の女王なんだ。放縦に大胆に、不羈ふき専横せんおうに、心のままにして差支えない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自己の能力を疑いつつも、遂に哲学に定めてしまった。四高の学生時代というのは、私の生涯において最も愉快な時期であった。青年の客気に任せて豪放不羈ふき、何の顧慮する所もなく振舞うた。
或教授の退職の辞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
かれが天稟の楽人ならば、われも不羈ふきの作家である。
盲人独笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……兵馬はこの菊池為三郎の知遇を得て、攘夷の急務を知り、また水戸志士の熱烈不羈ふきな能動性に感奮した。……回天の原動力は水戸にある。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の理解に従っての精神の独立不羈ふきを護ろうとする、その態度を示す自己目的のために急であって、彼が他の場所でははっきり認めているかのようであった
この内気で几帳面きちょうめんな大子供は、クリストフの狂暴な独立不羈ふきの精神に魅せられてしまって、滑稽こっけいなやり方でそれをまねようとつとめていた。クリストフはそれにいらだちもし得意でもあった。
自分のこういう不羈ふきな性格の人間に常識的な支えをしてくれるために生れてきたような男に思われる、自分のために彼を犠牲にしてきたことが実に多かったことを範宴はしみじみと今ここで感じる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当人は不羈ふき独立の魂と言ふ。鼻持ちならぬ代物だ。
いづこへ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
頼興の豪放不羈ふきな性格と、その立場からくる不平不満とに乗じて、頼興にとりいり、頼興を煽動せんどうして、この企図の頭首にした人物がいる筈である。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
アンネットの裡には、不羈ふきな自由精神があって、彼女の心臓ハートの力で殺すことが出来ない。
アンネット (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ベートーヴェンの方ではゲーテの天才を熱烈に尊敬していた(37)のに、彼の性格があまりに不羈ふきで烈しいためにゲーテの性格と調和が取れず、必然にゲーテの心を傷つける結果になった。
三人は互いに顔を見交わした、そのまま各自は豪雄不羈ふきの士である、そしてそこが主じの部屋だ。
彼のように衿恃を持った不羈ふきの天才は、末梢的な技巧に耽りやすい、世俗的で凡庸な精神のこの都——ヴァーグナーが侮蔑をもって厳しく批評した(45)この都に調和するはずはなかった。
彼らはその独立不羈ふきの信条にもかかわらず、紳士アダルベルトとともに、田舎いなかの小ハイカラであり、富裕無為な息子むすこさんたちであって、娯楽や気晴らしのつもりで文学をやってるのであった。