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きうだう
罷違ふて
旧道を
皆歩行いても
怪しうはあるまい、
恁ういふ
時候ぢや、
狼の
春でもなく、
魑魅魍魎の
汐さきでもない、まゝよ、と
思ふて、
見送ると
早や
親切な
百姓の
姿も
見えぬ。
はい、これは五十
年ばかり
前までは
人が
歩行いた
旧道でがす。
矢張信州へ
出まする、
前は一つで七
里ばかり
総体近うござりますが、いや
今時往来の
出来るのぢやあござりませぬ。
何矢張道は
同一で
聞いたにも
見たのにも
変はない、
旧道は
此方に
相違はないから
心遣りにも
何にもならず、
固より
歴とした
図面といふて、
描いてある
道は
唯栗の
毯の
上へ
赤い
筋が
引張つてあるばかり。