“敷(し)” の例文
濁(にご)れる水(みづ)も色(いろ)を添(そ)へて極彩色(ごくさいしき)の金屏風(きんびやうぶ)を渡(わた)るが如(ごと)く、秋草模樣(あきくさもやう)に露(つゆ)敷(し)く袖(そで)は、丈(せ)高(たか)き紫苑(しをん)の梢(こずゑ)を乘(の)りて、驚(おどろ)き飛(と)ぶ蝶(てふ)とともに漾(たゞよ)へり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
油断(ゆだん)をしているうちに、達二(たつじ)はいきなり山男に足を捉(つか)まいて倒(たお)されました。山男は達二を組み敷(し)いて、刀を取(と)り上げてしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さうして東隣(ひがしどなり)から借(か)りて來(き)た蓙(ござ)が五六枚(まい)敷(し)かれた。それから土地(とち)の習慣(しふくわん)で勘次(かんじ)は淨(きよ)めてやつたお品(しな)の死體(したい)は一切(さい)を近所(きんじよ)の手(て)に任(まか)せた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其晩(そのばん)宗助(そうすけ)は裏(うら)から大(おほ)きな芭蕉(ばせう)の葉(は)を二枚(まい)剪(き)つて來(き)て、それを座敷(ざしき)の縁(えん)に敷(し)いて、其上(そのうえ)に御米(およね)と並(なら)んで涼(すゞ)みながら、小六(ころく)の事(こと)を話(はな)した。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
附近は、独国海軍の侵入(しんにゅう)を喰い止めるために、到(いた)るところに機雷原(きらいげん)が敷(し)かれてあるので、かなり面倒なコースをとらなければならない。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「又そんな六ヶ敷(し)い言葉をお使ひなすつちやあ不可(いけ)ません。——だが今日はどちらへ。おいでの所かお帰りの所か存じませんが。」
虎 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「やすみしし吾大王(おほきみ)、高耀(ひか)る日(ひ)の皇子(みこ)、敷(し)きいます大殿(おほとの)の上に、ひさかたの天伝(あまづた)ひ来る、雪じもの往きかよひつつ、いや常世(とこよ)まで」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
家(うち)の父(ちち)は、新しく鉄道(てつどう)を敷(し)くために、山の中を測量(そくりょう)に歩いていましたので、そのたんびアイヌ人を道案内(みちあんない)にたのんでいました。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
そばには大(おお)きないちょうの樹(き)があって、このごろ吹(ふ)く風(かぜ)に、黄色(きいろ)な葉(は)が、さらさらと散(ち)って、足(あし)もとは一面(めん)に敷(し)いたようになっていました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
饂飩(うどん)屋のガラスの箱(はこ)の中にある饂飩の玉までが鮮(あざ)やかである。往来には軒先に莚(むしろ)を敷(し)いたり、箕(み)を置いたりして、それに消炭(けしずみ)が乾(ほ)してある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは丸太(まるた)を切(き)り組(く)んで出来(でき)た、やっと雨露(うろ)を凌(しの)ぐだけの、極(きわ)めてざっとした破屋(あばらや)で、広(ひろ)さは畳(たたみ)ならば二十畳(じょう)は敷(し)ける位(くらい)でございましょう。
老人(ろうじん)は松女を膝(ひざ)からおろしてちょっとむきなおる。はいったふたりはおなじように老人に会釈(えしゃく)した。老人はたって敷(し)き物(もの)をふたりにすすめる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
つまり平凡(へいぼん)なお手本(てほん)を敷(し)き寫(うつ)しになぞつて行(ゆ)くものですから、だん/\つまらなく、その作者(さくしや)の特徴(とくちよう)を出(だ)すことが出來(でき)なくなつたわけであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
訴(うつた)へるわけゆゑ言(いは)は裁許(さいきよ)破毀(やぶり)の願ひなれば一ト通りの運(はこ)びにては貫徹(つらぬく)事六(むづ)ヶ敷(し)からんされば長庵とやらが大雨(おほあめ)の降(ふる)に傘(かさ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
アメリカのことで畳(たたみ)がないから、寝台(しんだい)に使うわらぶとんのようなものを室いっぱいに敷(し)いて、毎日柔道を教えていた。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
藁(わら)で編(あ)んだ莚(むしろ)の敷(し)いてある爐邊(ろばた)で、數衛(かずゑ)のこしらへて呉(く)れた味噌汁(おみおつけ)はお茄子(なす)の皮(かは)もむかずに入(い)れてありました。たゞそれが輪切(わぎ)りにしてありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
昼寐(ひるね)の夜具(やぐ)を敷(し)きながら墓地(ぼち)の方(はう)を見下(みおろ)すと、いつも落葉(おちば)に埋(うづも)れたまゝ打棄(うちす)てゝある古(ふる)びた墓(はか)も今日(けふ)は奇麗(きれい)に掃除(さうぢ)されて、花(はな)や線香(せんかう)が供(そな)へられてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
入り口と周壁(しうへき)の或る部分(ぶぶん)には席(むしろ)を下げ置きしなるべく、地上(ちじやう)には木材を並(なら)べ、其上に席、編(あ)み物(もの)、獸皮(じうひ)、木皮抔(もくひなど)敷(し)き列(つら)ねて座臥の塲所とせしなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
やがて主人はまくり手(で)をしながら茹蛸(ゆでだこ)のようになって帰って来た。縁に花蓙(はなござ)が敷(し)いてある、提煙草盆(さげたばこぼん)が出ている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ついに父は荒川放水を逃路(とうろ)の限りとして背水の陣(じん)を敷(し)き、青海流水泳の最後の道場を死守するつもりである。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山田源之助は、中気で、而(しか)も右腕に怪我をしていた筈(はず)だ。その源之助が、あれ丈(だ)け鮮(あざやか)に喜三郎の心臓を突き刺す事が出来ると思うかい? 一寸(ちょっと)六ヶ敷(し)い話だ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
未(ま)だ此他(このた)に、四十一年(ねん)の十月(ぐわつ)、七八九三ヶ日(にち)、お穴樣(あなさま)探檢(たんけん)に駒岡(こまをか)にと通(かよ)つた、其時(そのとき)に、道路(だうろ)に貝殼(かひがら)を敷(し)くのを見(み)て、何處(どこ)の貝塚(かひづか)から持出(もちだ)したのかと疑(うたが)つて居(ゐ)た。
一人(ひとり)は妻(つま)なるべし對(つゐ)するほどの年輩(ねんぱい)にてこれは實法(じつぱふ)に小(ちひ)さき丸髷(まるまげ)をぞ結(ゆ)ひける、病(や)みたる人(ひと)は來(く)るよりやがて奧深(おくふか)に床(とこ)を敷(し)かせて、括(くゝ)り枕(まくら)に頭(つむり)を落(おち)つかせけるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もし此(この)裂(さ)け目(め)に挾(はさ)まると、人畜(じんちく)牛馬(ぎゆうば)、煎餅(せんべい)のように押(お)し潰(つぶ)されるといはれ、避難(ひなん)の場所(ばしよ)としては竹藪(たけやぶ)を選(えら)べとか、戸板(といた)を敷(し)いてこれを防(ふせ)げなどと戒(いまし)められてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
近頃(ちかごろ)時々(とき/″\)我輩(わがはい)に建築(けんちく)の本義(ほんぎ)は何(なん)であるかなどゝ云(い)ふ六(むづ)ヶ敷(し)い質問(しつもん)を提出(ていしゆつ)して我輩(わがはい)を困(こま)らせる人(ひと)がある。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
婆(ばあ)やの敷(し)いて呉れた床(とこ)へ這入(はい)って、酔っていたからでしょう、いつになくすぐに眠入(ねい)って了いました。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(舞踏室(ぶたふしつ)又(また)は客室(きゃくしつ)の床上(ゆかうへ)に刈(か)り集(あつ)めたるばかりの燈心草(とうしんぐさ)(藺(ゐ))を敷(し)きしは當時(たうじ)の上流(じゃうりう)の習(なら)はしなり。)
お白洲(しらす)ごっこだ。道理で、地面に茣蓙(ござ)を敷(し)いて、あれが科人(とがにん)であろう、ひとりの子供が平伏している。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あたかも南蛮絨毯(なんばんじゅうたん)を敷(し)きのべたように、すみきった大気(たいき)もみださぬほどな微風(びふう)になでられてあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といつてこのお婆さんは、何もそれ以上に邪慳だといふのでもなく、六(むづ)ヶ敷(し)屋でもないのでした。
家族 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ブレークネーは常識の活用と、チャンスの利用とによって、どんな六(むつ)ヶ敷(し)い関門をも打ち開き、少しも超自然的の力を借りない。そこが「紅はこべ」叢書の生命である。
歴史的探偵小説の興味 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
行儀(ぎやうぎ)よさで、たとへば卓子(テーブル)の上(うへ)にも青羅紗(あをらしや)とか白(しろ)ネルとかを敷(し)いて牌音(パイおと)を和(やはら)げるやうにしてあるのが普通(ふつう)だが、本場(ほんば)の支那人(しなじん)は紫檀(したん)の卓子(テーブル)の上(うへ)でぢかに遊(あそ)ぶのが普通(ふつう)で
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
千歳村でも戸毎に蚕(かいこ)は飼いながら、蚕室を有つ家は指を屈する程しか無い。板の間に薄べり敷(し)いて、大きな欅の根株(ねっこ)の火鉢が出て居る。十五六人も寄って居た。石山氏が
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
愛(あい)ちやんは仕方(しかた)なく片方(かたはう)の肘(ひぢ)は戸(と)に凭(もた)れ、片方(かたはう)の腕(うで)は頭(あたま)の下(した)へ敷(し)いて横(よこ)になりましたが、それでも尚(な)ほ寸々(ずん/″\)伸(の)びて行(い)つて、一番(ばん)終(しまひ)には、愛(あい)ちやんは片腕(かたうで)を窓(まど)の外(そと)に突出(つきだ)し
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今(いま)かりにその木(き)の根元(ねもと)から切(き)つた切(き)り口(ぐち)に疊(たゝみ)を敷(し)いてみるとしますと六十九疊(ろくじゆうくじよう)も敷(し)けますから、けっきよく、八疊(はちじよう)の座敷(ざしき)が八(やつ)つと、五疊(ごじよう)の部屋(へや)が一(ひと)つとれる勘定(かんじよう)になります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そこで綿(わた)のやうに疲勞(つか)れて眠(ねむ)りにつきました。草(くさ)を敷(し)き、石(いし)を枕(まくら)にして、そしてぐつすりと。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
間隔(まあい)を離して部屋の隅に、二流(ふたながれ)敷(し)いてある夜具の中に、二人ながら既に寝ているのであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秋には、初茸(はつたけ)、土かぶり、なめこなどのキノコ類が、アヤの形容に依れば「敷(し)かさつてゐるほど」一ぱい生えて、五所川原、木造あたりの遠方から取りに来る人もあるといふ。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
へえーアノ何(なん)ですか、蟇(ひきがへる)を。真「蟇(ひきがへる)ぢやアない、敷皮(しきがは)です、彼所(あれ)に敷(し)いてあるから御覧(ごらん)なさい。甚「へえー成程(なるほど)大きな皮だ、熊の毛てえものは黒いと思つたら是(こ)りア赤(あか)うがすね。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
家の者も東京なり神戸なり、出て行く以上は、その土地々々に一生落着くことにして、生活(くらし)が六(むづ)ヶ敷(し)うなつて生家(うち)へ轉がり込まんやうにきつぱり極りをつけとかにやならんと思ふ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
谷中(やなか)から上野(うえの)へ抜(ぬ)ける、寛永寺(かんえいじ)の土塀(どべい)に沿(そ)った一筋道(すじみち)、光琳(こうりん)の絵(え)のような桜(さくら)の若葉(わかば)が、道(みち)に敷(し)かれたまん中(なか)に佇(たたず)んだ、若旦那(わかだんな)徳太郎(とくたろう)とおせんの兄(あに)の千吉(きち)とは、折(おり)からの夕陽(ゆうひ)を浴(あ)びて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
走るのは畜生(ちくしょう)だし、乗るのは他人だし、本命といっても自分のままになるものか、もう競馬はやめたと予想表は尻に敷(し)いて芝生(しばふ)にちょんぼりと坐(すわ)り、残りの競走(レース)は見送る肚(はら)を決めたのに
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
読で居ながら知らない風(ふう)をして毒々敷(し)い事を言うから憎まれずには居られない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こんな天気のいゝ時だと憶(おも)ひ起(おこ)し候(そろ)は、小生(せうせい)のいさゝか意(い)に満(み)たぬ事(こと)あれば、いつも綾瀬(あやせ)の土手(どて)に参(まゐ)りて、折(を)り敷(し)ける草の上に果(はて)は寝転(ねころ)びながら、青きは動かず白きは止(とゞ)まらぬ雲を眺(なが)めて
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
新吉はうれしさのあまり、おがくずの敷(し)いてある円い演技場(えんぎじょう)を、ぴょんぴょん飛(と)びまわっていると、出入り口の垂(た)れ幕(まく)のかげから、一人の少女と、それより年の多い女の人が出て来ました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そしてあしかの毛皮を八枚(まい)重(かさ)ねて敷(し)き、その上へまた絹の畳(たたみ)を八枚重ねて、それへすわっていただいて、いろいろごちそうをどっさり並(なら)べて、それはそれはていねいにおもてなしをしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
恨むと見ゆる死顔の月は、肉の片(きれ)の棄てられたるやうに朱(あか)く敷(し)ける満地の瓦を照して、目に入(い)るものは皆伏し、四望の空く寥々(りようりよう)たるに、黒く点せる人の影を、彼は自(おのづか)ら物凄(ものすご)く顧らるるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
兎(と)ても六(むつ)ヶ敷(し)いことと一同断念(あきら)めて居たので御座いますよ、能(よ)くまア、奥様御都合がおつきなさいましたことネ——山木家は永阪教会に取つては根でもあり、花でもありなので御座いまする上に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乘組(のりくみ)の人員(じんゐん)は、五人(ごにん)が定員(てんゐん)で、車内(しやない)には機械室(きかいしつ)の外(ほか)に、二個(にこ)の區劃(くくわく)が設(まう)けられ、一方(いつぽう)は雨露(うろ)を凌(しの)ぐが爲(た)めに厚(あつ)さ玻璃板(はりばん)を以(もつ)て奇麗(きれい)に蔽(おほ)はれ、床上(しやうじやう)には絨壇(じゆうたん)を敷(し)くもよし、毛布(ケツトー)位(ぐら)いで濟(す)ますもよし
彼女は、出来上った着物を畳(たた)んで座蒲団(ざぶとん)の下に敷(し)いた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)