鶯谷うぐいすだに)” の例文
根岸の鶯谷うぐいすだにの奥の植木師うえきやの庭つづきの、小態こていな寮の寮番のような事をしながら、相変らずチンコッきりと煙草の葉選はよりの内職だった。
鶯谷うぐいすだにを下りて御院殿をかたえに見て、かの横町へ入ると中ほどの鴨川の門の前に、二頭立の馬車が一台、幅一杯になって着いていた。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背負しょい太刀、ダン袋、赤い飾毛をなびかせた官軍が五六人、木立をさぐり、藪を分けて鶯谷うぐいすだにの方へ降りて行きます。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私はまえに実さんやはじめさんなどと、鶯谷うぐいすだにから上野の山を抜けて道灌山どうかんやままで遊びに行ったことがある。かえりには日暮里にっぽりから三河島を通って帰ってきた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
向かい合ってタラタラと並んでいるのはお筒持つつもちの小身の組屋敷であったが、そこを右へとって進んで行けば、寂しい寂しい鶯谷うぐいすだにとなる。そっちへ浪人は歩いて行く。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こう思って各々めいめいは同じく山下へ入り込んで行きましたが、究竟くっきょうと思う木蔭こかげ山蔭やまかげをも無事に通り抜けさして、ついに鶯谷うぐいすだに新坂しんざかの下まで乗物を送って来てしまいました。
四、五町来ると、屏風びょうぶ坂から鶯谷うぐいすだにのさびしい山蔭、もう、ここらでよかろうと万吉
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも歩き廻る場末ばすえの町を歩いていた時、それは省線の鶯谷うぐいすだにに近いところであったが、とある空地に、テント張りの曲馬団がかかっていて、古風な楽隊や、グロテスクな絵看板が好ましく
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
電車通を行くことなほ二、三町にしてまた坂の下口おりくちを見る。これすなわち金剛寺坂こんごうじざかなり。文化のはじめより大田南畝の住みたりし鶯谷うぐいすだには金剛寺坂の中ほどより西へ入る低地なりとは考証家の言ふところなり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三月二十八日 高木峡川きょうせん送別。鶯谷うぐいすだに伊香保いかほ。越央子招宴。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
鶯谷うぐいすだに日暮里ひぐらしのさと初音町はつねちょうと風流な名まえがついている。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
(東京郊外、渋谷町しぶやまち鶯谷うぐいすだにアパートにて)
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雉子きじ町を通り、淡路あわじ町を通り、駿河台へ出て御茶ノ水本郷を抜けて上野へ出、鶯谷うぐいすだにへ差しかかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上野の山内さんない清水きよみずの観音堂。鶯谷うぐいすだにという順に、その到る処、花が咲いていたように思います。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三島神社のある通りに出て、永藤という屋号のパン屋の横町だったかの狭い露地を通りぬけると、そこはもう根岸で幼稚園は鶯谷うぐいすだにへ出る途中のやっちゃ場(青物市場)の近くにあった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
鶯谷うぐいすだにの古梅庵という料亭までご足労を願いたい——という文意。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渋谷しぶや鶯谷うぐいすだにアパート」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鶯谷うぐいすだに、しほ原。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
二晩ばかりつけました、上野の山ね、鶯谷うぐいすだにね、ステッキでも持ちゃあがって散歩とでも出掛けてみろ、手前てめえいかしちゃあ帰さねえつもりで、あすこいらを張りましたけれど、出ませんや。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし、鶯谷うぐいすだにへ出るには、ちと、方角違いな気がするが」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胎毒たいどくですか、また案じられた種痘うえぼうそうの頃でしたか、卯辰山うたつやまの下、あの鶯谷うぐいすだにの、中でも奥の寺へ、祖母に手をひかれては参詣をしました処、山門前の坂道が、両方森々しんしんとした樹立こだちでしょう。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶯谷うぐいすだにでは見られない、田舎には珍らしい、い女が居るからと、度々聞かされたのでありますが、ただ、佳い女が居るとばかりではない、それが篠田とは浅からぬ関係があるように思われまする
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)