うっ)” の例文
「実をいえば、手前こそ人恋しくいたところで、きょうもきのうも胸にうっしていたものを、誰かに語りたくてならなかった折なのです」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
永い苦海の間にも精気の緩急おきふしがあって、○○○の肌が死ぬほどうっとうしく感ぜられ、それがまるで、大きな波のうなりの底に横わっていて
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
人をも身をもそこない傷つけた。私はそのときから畏れる心を知った。他人の運命を傷つけてはならない。われとわが聖霊をうっしてはならないと。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それからその道理から推して、自分の気がうっしたり、心配が起って来たりするのを、却って気分のいよりは有望な徴候だと思うようになる。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
本所の化物屋敷鈴川の家には、ひるさがりながら暗い冷気がうっして、人家のないこのあたりは墓所のようにひっそりしていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それがさ、今もいった通り、今夜に限って甚三の歌が、ひどく違って聞こえるからだ」「いつもとどこが違うかな?」「うっしていたのが延びている。 ...
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
肉体的とも精神的とも分野をつき止めにくいあこがれが、低気圧のうずのように、自分の喉頭のどのうしろのあたりうっして来て、しっきりなしに自分にかわきをおぼえさせた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うつうつ気がうっして、待合室の窓からそとのしいの若葉をながめてみても、椎の若葉がひどい陽炎かげろうに包まれてめらめら青く燃えあがっているように見え、外界のものがすべて
灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其日は何となく気がうっして、面白くなかつたので、池の周囲まはりまはる事は見合せてうちへ帰つた。晩食後筆記を繰り返してんで見たが、別に愉快にも不愉快にもならなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
持って生まれた濃情が半蔵のからだからこんな気のうっする病を引き出したのか、あるいは病ゆえにこんなに人恋しく思うのであるか、いずれともお民には言えないとのことであったが
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
病人はそこの娘さんですが神経病、ちょうど肺病などが起りかけたような具合にごく気がうっして居るだけの事ですが、そういう病気にかかって居るものですから少しも外に出ないという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
辻占つじうらが悪くなるような気がされて、雪之丞、胸がうっしてならないのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一日ごとに、太陽の熱度がたかくなって、木や草ばかりがズンズンと伸びていった。静中の動、なんらかの力がそこにうっしている。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひとりでくよくよ考えているから、そいつがうっして夢に出るのだ。五臓の疲れとはよくいったものよ。おいらに話したから、すっぱりして、こころの荷がおりたのだろう」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その日はなんとなく気がうっして、おもしろくなかったので、池の周囲まわりを回ることは見合わせてうちへ帰った。晩食後筆記を繰り返して読んでみたが、べつに愉快にも不愉快にもならなかった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ、何でも好きなもの……いや自分の胸にうっしているものを、その七つのあなから、吹き散じてしまうつもりで吹いてごらん」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)