驚駭きょうがい)” の例文
私の役は彼の手紙を携えて、驚駭きょうがいの表情で彼の父の所へ駈けつけて、彼の父をき伏せなければならないのだった。之は中々大役だ。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その発端は、一種の恐るべき快活さが交じった驚駭きょうがいのみである。初めはただ騒擾そうじょうであり、商店は閉ざされ、商品の陳列棚は姿を消す。
いやが上の恐怖と驚駭きょうがいは、わずかに四五間離れた処に、鳥の旦那が真白まっしろなヘルメット帽、警官の白い夏服で、腹這はらばいになっている。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
支那で馬にちなんで驚駭きょうがいと書き『大毘盧遮那加持経だいびるしゃなかじきょう』に馬心は一切処に驚怖思念すとあるなど驚き他獣の比にあらざるに由る。
我々がどんなに驚駭きょうがいして、棒立ちに突っ立っていたかは、夫人よ、御身にも御想像がお付きになれるであろうと思います。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼らに出逢ったという多くの記事には、偶然であった場合に限って、彼らの顔にもやはり驚駭きょうがいの色を認めたといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分とソックリの姉の死像を描いた絵巻物を開いて見せられた芬子嬢は、実に断腸だんちょう股栗こりつ驚駭きょうがいこれを久しうした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
オウタハイトとその近隣の諸島に関して吾々が得ている数多の報告によって見れば、文明諸国民の間にかくも大きな驚駭きょうがいをひきおこしたエアリイオイ社1
彼は、驚駭きょうがいのあまり、歯の根もあわず、がたがたとふるえだしたが、そのとき咄々先生はからからと笑って
ところが、あけに染んでたおれたのは、長子のウォルターだったので、驚駭きょうがいした主は、返す一撃で自分の心臓を貫いてしまった。次はそれから七年後で、次男ケントの自殺だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今の世事せいじの成行を目撃せしめたらば、必ず大いに驚駭きょうがいして、人倫の道も断絶したる暗黒世界なりとて、痛心することならんといえども、いかんせん、この世態せいたいの変は、十五年以来
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
矢庭やにわ驚駭きょうがいの声を立てたのは今しも其処そこに酒杯の盆を運んで来た田氏であった。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
初から箕浦の挙動を見ていたフランス公使は、次第に驚駭きょうがい畏怖いふとに襲われた。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
怒らず働いて、生活の不安がなくなるものならば、どうして少年少女の時代から怒らず工場でよく働きつづけた今日の青年達が、弱体であり、知能が低いと保健省を驚駭きょうがいさせるのであろうか。
私たちの社会生物学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
僕は驚駭きょうがいのあまりに声を立てようとしたが、どうしても声が出なかった。
賢一郎 (驚駭きょうがいして)なに見えん! 見えんことがあるものか。
父帰る (新字新仮名) / 菊池寛(著)
驚駭きょうがいしたディーニュ市民の群衆に向かって、ジュアン湾(訳者注 ナポレオンが一八一五年三月一日エルバ島より再びフランスに上陸したる湾)
極度の緊張から驚駭きょうがいへ、驚駭から失望へ、失望から弛緩しかんへ、私は恐ろしい夢と、金を取戻したはかない喜びの夢を、夢現ゆめうつつの境に夢みながら、琵琶湖のほとりをひた走りしていた。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一体どこの海から漂着してきたものであろうか? 実は何にも事情を知らずにこの函の表面を一目眺めるや否や、たちまち非常なる驚駭きょうがいに打たれたわけなのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
明白に描きあらわすところの、驚駭きょうがいと、戦慄とを極めた大悪夢である事が、人間の肉体、および、精神の解剖的観察によって、直接、間接に推定され得る……と主張している。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かくして売手の驚駭きょうがいが終った時に価格が再び騰貴するのを防止し得たのである。
誰かその長足の進歩に驚駭きょうがいせざるものあらんや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それこそまさしく、恐怖にとらわるることなき魂であり、狼狽ろうばいの何たるかを知らない魂であった。絶望の場合に臨んでも驚駭きょうがいの念をおさえ得る人であった。
さすがに一同っ! と驚駭きょうがいの叫びを発したが、ピッケルン島南の遭遇以来、死生の間に打ちのめさるることすでに九十六時間! 身心気力ともにえ疲れ、感覚は麻痺し
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
社長の顔にはさっと驚駭きょうがいの色が流れたが、すぐに無言で彼女に飛びかかってきた。彼女は本能的に身を退いた。社長はすぐ迫ってきた。目は爛々らんらんと輝いて、淫欲と凶暴の相が物凄ものすごひらめく。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
程経ほどへてこれを発見せし実父母は驚駭きょうがいくところをらず。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
最初の驚駭きょうがいの動揺に次いで、墳墓のような沈黙がきた。人々はその広間の中に、何か偉大なることがなさるる時群集を襲うあの宗教的恐怖の一種を感じた。
署長と主任は同時に驚駭きょうがいの声を上げた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
コゼットは一種の驚駭きょうがいの情をもって、そのみごとな人形をながめた。その顔はなお涙にまみれていたが、その目はあけぼのの空のように、喜悦の言い難い輝きに満ちてきた。
驚駭きょうがいと憤慨と憎悪ぞうおと憤怒とがこんがらがって一つの恐ろしい高調子になって現われたのである。
デュリュットの二個連隊は驚駭きょうがいして右往左往し、ドイツ槍騎兵の剣とケンプト、ベスト、バック、ライラントの各旅団の銃火との間に、あたかもはね返されてるようだった。
その数語に対して、彼は激しい眩惑げんわくを覚えた。しばらくは、心の中に起こった感情の変化に押しつぶされたまま、驚駭きょうがいの念に酔ったかのようにマリユスの手紙をながめていた。
驚駭きょうがいの度が彼にはあまり大きかった。彼は口をきき得ないでぼんやり立ちつくしていた。
そして驚駭きょうがいの後に喜びの念をいだいた。今はもはや、捜索しているもうひとりの男を、自分を救ってくれた男を、見いだすのみであって、それができればもう他に望みはなくなるわけだった。
今マリユスが目を通した歴史は、彼を驚駭きょうがいせしめた。
世人の驚駭きょうがい喧騒けんそうとを惹起じゃっきした。