駄菓子だがし)” の例文
老猟師の家をたずねますと、ちょうどおりよく例のモンペ姿の老人が居あわせて、駄菓子だがしなどのならべてある店先へ出てきました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白は屠所の羊の歩みで、牽かれてようやくいて来た。停車場前の茶屋で、駄菓子だがしを買うてやったが、白はおうともしなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
筋の多いふかしいも、麦飯の結塊むすび、腹のいた時には、富家の子をだまして、銭を盗み出させて、二十銭の銅貨に駄菓子だがしを山ほど買って食った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お三輪はそれを和助のそばに置いて、これは駄菓子だがしのたぐいとは言いながら、いい味の品で、両親の好物であるからと言って見せたりした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人ふたりは、駄菓子だがしや、荒物あらものなどを、そのちいさなみせさきにならべて、それによって、その、そのらしていたのです。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
駄菓子だがし草鞋わらじ糸繰いとくりの道具、膏薬こうやく貝殻かいがらにはいった目薬、そのほか村で使うたいていの物を売っている小さな店が一軒きりしかなかったのである。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
正面に駄菓子だがしせる台があって、ふちれた菓子箱のそばに、大きな皿がある。上に青い布巾ふきんがかかっている下から、丸い揚饅頭あげまんじゅうみ出している。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どら焼なる物は、銀座の大通りに売って居る屋台の駄菓子だがしの事だが、己のみにく容貌ようぼうのどら焼に似て居ると云うので、お嬢様がお附けになった仇名あだななのである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
村の店屋てんや駄菓子だがし店、小あきない等は、或いは寡婦等を自立せしめる一便法のごとく、考えられていたかとも思われるが、その影響は存外に大きなものがあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おもちゃや駄菓子だがしを並べた露店、むしろの上に鶏卵や牡丹餅ぼたもち虎杖いたどりやさとうきび等を並べた農婦の売店などの中に交じって蓄音機屋の店がおのずからな異彩を放っていた。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一方の腰かけのすみには、沖売ろう——船へ菓子や日用品を売り込みに来る小売り商人——の娘が、果物くだもの駄菓子だがしなどのはいった箱を積み上げて、いつ開こうかと待っているのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
やはり、駄菓子だがしやおもちゃのるいに、そのほか子供こどもきそうなものをならべていました。あやは、べつにそれまではなにもほしいとはおもいませんでした。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)
降誕祭前一週間ほど、市役所前の広場にとしいちが立って、安物のおもちゃや駄菓子だがしなどの露店が並びましたが、いつ行って見ても不景気でお客さんはあまり無いようでした。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
駄菓子だがしを売る古い茅葺かやぶきの家、ここまで来ると、もう代々木の停留場の高い線路が見えて、新宿あたりで、ポーと電笛の鳴る音でも耳に入ると、男はその大きな体を先へのめらせて
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
下に駄菓子だがしの箱が三つばかり並んで、そばに五厘銭と文久銭ぶんきゅうせんが散らばっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まばらに立ち並ぶ街燈、並木のあいだにチラチラ見える一軒家、その駄菓子だがし屋らしい藁葺わらぶきの一軒家までたどりつくと、彼はいきなりガタピシと障子をあけて、そこの土間へのめりこんだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)