香木こうぼく)” の例文
この香木こうぼく聖武しょうむ天皇の御代、中国から渡来したもので、正倉院しょうそういんふうじられて、勅許ちょっきょがなければ、観ることすらゆるされないものだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
香木こうぼくの車を造らせるやら、象牙ぞうげの椅子をあつらえるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時相役申候は、たとい主命なりとも、香木こうぼくは無用の翫物がんぶつ有之これあり、過分の大金をなげうそろこと不可然しかるべからず所詮しょせん本木を伊達家に譲り、末木を買求めたき由申候。
銀のかごを国王から作ってもらい、その中に香木こうぼくくずで作った巣を入れ巣の中に黄金おうごんたまごを置いておきました。そして朝と晩とには必ず中をのぞいてみました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこで、またくびすをめぐらして岩角がんかくと雑草の間の小径こみち香木こうぼく峡の乗船地へとむかっておりた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
品川の下屋敷から、綱宗夫人の使いがあり、伝来の香木こうぼくで持仏を彫らせてくれ、という注文があった。その香木はことによると、政宗公が豊太閤からもらったものではないだろうか。
或る時はにしきあや、等々の織物、或る時はこれも唐土から渡ったと云う珍奇な幾種類もの香木こうぼく、或る時は葡萄染えびぞめ、山吹、等々の御衣おんぞ幾襲いくかさね、———折にふれて何とか彼とか口実を設けては
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なんのそれよりは天子から霊山へご献納の吊燈籠つりどうろうだ。そのほか、貴重な香木こうぼくやら数々なおそなえ物など。ああ、どうしようもない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時横田もうしそろは、たとい主命なりとも、香木こうぼくは無用の翫物がんぶつ有之これあり、過分の大金をなげうそろこと不可然しかるべからず所詮しょせん本木を伊達家に譲り、末木を買求めたきよし申候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
金のよろいだの、銀のかぶとだの、孔雀くじゃくの羽の矢だの、香木こうぼくの弓だの、立派な大将の装いが、まるで雨かあられのように、まぶしく日に輝きながら、ばらばら眼の前へ降って来ました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
実はよいの花火までの間を是非ぜひその子にも見学させて置きたいと思って、おいたちにれて出てもらった。そこで土田どたまで電車で、香木こうぼく峡から舟でこの父とおなじに、日本ラインを下って来たのであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
(やはり、ゆかしいものがある……)とそこらの調度や、どこかでくゆらしている香木こうぼくのかおりにも、そう思えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし初音はつねこうを二条行幸の時、後水尾ごみずお天皇にたてまつったと云ってあるから、その行幸のあった寛永三年より前でなくてはならない。しかるに興津は香木こうぼく隈本くまもとへ持って帰ったと云ってある。
あどけない童女の人形一コと、香木こうぼく香苞こうづとと、唐筆からふでと匂いのいい墨が一つ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)