面妖めんよう)” の例文
老人と二人の書生とは、棒立ちになったまま、暫くは口を利く力もなかったが、やがて、書生の一人が、面妖めんような顔をして、呟いた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「こりゃちと面妖めんようだな。わしの推察みこみじゃ、里春は、練出さない前に殺されていたはずなんだが、死人が口をきくというのはどういうものだろう」
「ハテ、面妖めんような! いまたしかにどこかで、アノ、源三郎——伊賀の暴れん坊の笑い声が、響いたような気がしましたが」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お銀様は面妖めんような相手共だと心に感じながら、その一方の穴へ近づいて、ほとんど中をのぞきこむばかりにして見ると
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほどこれは面妖めんような話じゃ。昔はあの猿沢池さるさわのいけにも、竜がんで居ったと見えるな。何、昔もいたかどうか分らぬ。いや、昔は棲んで居ったに相違あるまい。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きつねに鼻をつままれたような恰好で、大迷宮だいめいきゅう事件にぶっつかったとでも云いたいところです。使いに出した者が途中で煙のように消えてしまうのですから、これは面妖めんような話。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「はて、面妖めんような。只事ただごとでない。」と家令を先に敷居越し、恐る恐るふすまを開きて、御容顔を見奉れば、徹夜の御目おんめ落窪おちくぼみて、御衣服おめしものは泥まぶれ、激しき御怒おいかりの気色あらわれたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不思議なことに、カッキリと日が合いまするゆえ、面妖めんように思うておりまするのでござります。
だのに、その勝頼が、すみぞめのころもをきて、京都にはいったとは、なんとしても面妖めんようである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その学者も「面妖めんようの老頭にして、いかぬ老頭なり」とその報告書にしるしてありますくらいで、地団駄じだんだ踏んでくやしがった様が、その一句にっても十分に察知できるのであります。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「お袖か、わしは、おぬしの所在を探しておったが、かわった処で、はて面妖めんような」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おらたちにゃあ、なにが起こるかわからねえ、誰にもなんにもわかりゃしねえ、だがなにかがおっ始まる、なにかどえれえ事がおっ始まるぜ、うん、こんな面妖めんようなことばかりあるところを
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ある日の午後、わたしたち三人が例のごとく身体じゅうを面妖めんような墨絵に包まれて、笑い興じながらお湯にやって行きますと、一人の五十ばかりの白髪童顔の紳士が千人風呂に入っていました。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さすればそれも確かに在ったことでしょう。だが、今にして思い廻らしてみても一向にそのことの覚えはありません。われながら、はて面妖めんような、その声、その唄、その所作ではございませんか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
面妖めんようだね。なぜだろうね」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こいつは面妖めんようだね。こうなるてえと、俺あどうも聞かずにゃ置かれねえ。そう勿体ぶらねえで、後学の為に御伝授に預かり度いもんだね。
指環 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
飛び石で頭蓋あたまを砕いて死んだ——それはそれとして、その陰に、こんな面妖めんような話がある。
「はて、面妖めんような。あれだけ重い道具を入れて、こんなに軽いとは、まるで手品みたいだ。お客さん、あなたは早いところ、あの道具類をトランクから抜いて、どこかへ隠してしまいましたね」
あまりのことに一同は、しばらくいた口もふさがらず、ヒョッコリ庭先にたった、面妖めんような子供をみつめるのみ。子供とはいうまでもない竹童ちくどうで、人見知りもせず、ニヤリと白い歯を見せた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(いんね、川のでございます。)という、はて面妖めんようなと思った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はあてね、こいつあ面妖めんようだわい。だれが一体こんなまねをしたんですい?」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ややや、面妖めんような奴かな。玄徳が義弟おとうとの関羽だと。——よしッ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おやおや、何か出て来やがったな。はアて面妖めんような? ……」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こは、面妖めんような」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)