靜謐せいひつ)” の例文
新字:静謐
二十萬石の大々名が改易削封かいえきさくほうになれば、何百何千人の難儀ばかりでない。天下靜謐せいひつの折柄、その爲にどんな騷ぎが持上がり、諸人の迷惑にならうも知れぬ——
そのしたうたがひもなき大洞窟おほほらあなで、逆浪ぎやくらう怒濤どたう隙間すきまもなく四邊しへん打寄うちよするにかゝはらず、洞窟ほらあななかきわめて靜謐せいひつ樣子やうすで、吾等われらあゆたびに、その跫音あしおとはボーン、ボーン、と物凄ものすごひゞわたつた。
洛陽伽藍記らくやうがらんきふ。帝業ていげふくるや、四海しかいこゝに靜謐せいひつにして、王侯わうこう公主こうしゆ外戚ぐわいせきとみすで山河さんがつくしてたがひ華奢くわしや驕榮けうえいあらそひ、ゑんをさたくつくる。豐室ほうしつ洞門どうもん連房れんばう飛閣ひかく
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「が、天下靜謐せいひつだな、今年になつてからは、ろくな巾着切きんちやくきりも出て來ないよ。謀反なんかあるわけは無いし」
「でも人助けになるぢやありませんか。大きく言へば、それ笹野の旦那がよく言ふ天下靜謐せいひつのため」
「喃、千本ちもと氏、町方の御用聞などといふものは先づあんなもので御座らうな。あんなことでは、御膝元の靜謐せいひつは心もとないが、江戸の町人は人が良いから無事に濟むわけで——」
靜謐せいひつそのものですが、八五郎が時々やつて來ては、頓狂な調子で事件の匂ひを持込み、錢形平次を、靜から動に、隱者のやうな生活から、大波瀾大活躍の舞臺へとさそひ込むのです。
「一應尤もだが、天下靜謐せいひつの折柄、無理な詮索せんさくをして江戸から切支丹教徒を擧げるのは面白くない。原主水もんど一味の刑死以來、久しく血腥ちなまぐさい邪宗徒の仕置が絶えてゐるのだから——」
「一向分りません。が、たつた百梃の鐵砲で謀叛むほんたくらむ筈も御座いません。多分物好きな大名方の買物で御座いませう。此の儘何事も知らぬ顏に過すのが、天下靜謐せいひつのためと存じます」
「へツ、天下は靜謐せいひつですよ、——親分におかせられても御機嫌麗はしいやうで」
一應天下靜謐せいひつとなると、一度やつた祿が惜しくなり、難癖をつけてはそれを取り上げるのが、隱密裡の一つの政策になつて居たことは歴史を引合ひに出す迄もなくあまりに明かなことでした。
「錢形の親分が、唐紙の繕ひをしてゐるんだから、天下靜謐せいひつにきまつてゐるぢやありませんか、そんなにひまで/\しやうがないなら、ちよいと智惠を貸して下さいよ——ところで——と來るわけで」