霍乱かくらん)” の例文
旧字:霍亂
定斎の利目はかくても霍乱かくらんにならぬとてそれで通したものだが、今は蝙蝠傘に定斎と記されたをさして、担いゆく男に附添うたるが
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
しば増上寺ぞうじょうじ涅槃会ねはんえへ往っていた権八郎がその夜霍乱かくらんのような病気になって翌日歿くなり続いて五月二十七日になって女房が歿くなった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私の三つの時の七月に母は霍乱かくらんで死んだ。それ以来私は祖母の手に育てられた。私のうちには父母の外に祖母と曾祖母がいた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
名乗るとすぐ通してくれたのは、奥まった一室、石津右門相変らず鬼の霍乱かくらんみたいな顔に、鬱陶うっとうしいしわを刻んで出て来ました。
のみが火花を出す暑い音、霍乱かくらんをおこして暴れくるう馬のいななき、残暑の空は、午後に入って、じいんと鼓膜こまくが馬鹿になるような熱さだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手前は御当家のお奥に勤めているりよの宿許やどもとから参りました。母親が霍乱かくらん夜明よあけまで持つまいと申すことでござります。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
森山が、疲労と睡眠不足との身体を炎暑に煎りつけられて、日射病系の急性霍乱かくらんで死んでから、そこの小作人達は、代る代るに水揚げ水車を踏んだ。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
家内の者もおどろき騒いで、すぐに近所の医者を呼びにやると、医者は暑気あたりの霍乱かくらんであろうと診察した。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
死んでいたのか眠っていたのか、それとも霍乱かくらんでも起してひっくりかえってたのか。生きて眼をさましていたとあれば、それは理屈にあわなかろう、どうだ
前者の「秋の空尾のすぎに離れたり」「息吹きかえす霍乱かくらんの針」「顔に物着てうたたねの月」
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
顔のはばが広くほっぺたが真っ赤に光っている助手さんがあって、いかにも赤鬼のお面を聯想れんそうさせるのだが、さすがに、そこは遠慮して避けて、鬼の霍乱かくらんというわけで、カクランだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
千々岩安彦はみなしごなりき。父は鹿児島かごしまの藩士にて、維新の戦争に討死うちじにし、母は安彦が六歳の夏そのころ霍乱かくらんと言いけるコレラにたおれ、六歳の孤児は叔母おば——父の妹の手に引き取られぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
長い竿さおのさきへ菓子袋をくくり付けて、大きな柿の木の下でせみの捕りくらをしているのを、宗助が見て、兼坊けんぼうそんなに頭を日に照らしつけると霍乱かくらんになるよ、さあこれをかぶれと云って
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老紳士「夏になると鶏が霍乱かくらんのようになって急に死ぬ事がありますね」中川
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「病気でも起ったのかい——鬼の霍乱かくらんてやつで……」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「鬼の霍乱かくらんでしょう」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「しめたと思ったから、飛んで行って勘三郎を挙げるつもりだったが、いけねえ、——肝腎の勘三郎は、三日前から霍乱かくらんかかって、死ぬような騒ぎだ」
「それが今になると思い当ることがあるんです。御成道の道具屋の女房はこの七月に霍乱かくらんで死にました。」
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
虎列拉には三種さんしゅありて、一を亜細亜虎列拉といい、一を欧羅巴虎列拉といい、一を霍乱かくらんという、此病には「バチルレン」というものありて、華氏百度のねつにてす云々。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これがしゃくの病とか霍乱かくらんとかいう話なら、源内にも応急策はいろいろあるが、少なからぬ大金ではあるし、相手がよほど腕のすごいゴマの蠅ときいては、どうもさじ加減の及ぶ所ではない。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は客の方を見ながら、「お重が心持が悪いなんて、まるで鬼の霍乱かくらんだな」と云って、今度は自分に、「先刻つな(母の名)の話では腹が痛いように聞いたがそうじゃない頭痛なのかい」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところで、医者の診断では、卒中でも霍乱かくらんでもない。まぎれもなく絞め殺されて死んだのに相違ないという。……この世の中に理外の理というものがあれば、まさに、こういうのを言うのだろう。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ちょうど、霍乱かくらんか何かのような、一時は臓腑ぞうふまで吐くんじゃないかと思いました。が、それでもうんと吐いたのは容態が軽い方で、あまり吐かない女どもは重うございました
それから三、四年経つうちに、親分の吉五郎は霍乱かくらんで死にました。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五十前後の鬼が霍乱かくらんを患ったような悪相の武家、眼も鼻も口も大きい上に、渋紙色の皮膚、山のような両肩、身扮みなりも、腰の物も、代表型ティピカル浅黄裏あさぎうらのくせに、声だけは妙に物優しく
「その十次郎様というのが霍乱かくらんで死んだというのだろう」
霍乱かくらんになる菓子を捨てるくらいの智恵はあるよ」