まざ)” の例文
旧字:
ひょっと人の血がまざってでもいるなら、染吉自身の血だとして、あんまり生血を絞ったんで、衰えて死んだとしてもいい。
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
国木田君は「国民新聞」派から、島崎君は「文学界」派から、私は何方かといへば「硯友社」派から出て来て、そして次第に一緒にまざり合つて行つた。
『蒲団』を書いた頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
はずかしいはなしですけれど、紀介様のしばしばおおせになるああいうお言葉には、やはり嫉妬のようなお心がまざっていると考えていましたわたくしは
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
引出の中は、大部分は手紙の反古ほごうづまつてゐる。封筒に這入つてゐるのもある。這入つてゐないのもある。横文字のもまざつてゐる。絵葉書も雑つてゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
弥撒ミサおわって、なんだか亢奮こうふんしているような顔のおおい外人達の間にまざりながら、その教会から出てきた時は、私達もさすがに少しばかり変な気もちになっていた。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
吹き込む雪まざりの寒風がカーテンに当って上り下りしおりその風の運動がくだんの両人の立ち廻りと現われ、消え失せた後もなお無形の何かが楕円軌道を循環すると見えた。
かみ砕いた松柏の葉や魚の肉がまざっている、それらが続いて、ポツリポツリと頭を上げてきた。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
多勢の他テイムのなかにまざると、余計さびしく、出帆してから二三日、練習以外の時間は、ただ甲板を散歩したり、船室で、啄木を読んだり、船室が、相部屋の松山さん
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それだけ、それが、私としてくやしいまざりものをもっているらしいことが私の直感としてどかないのです。今私の感じているままを細かく書くと非常に面白いが、又長くなりそうで心配。
彼の知つた女はその中にまざつて立ち働いてゐた小娘だ。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「フフウ嫉妬しっとの原素もまざッている。それから」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうしてこれはまざのない、心からの本当の軽さらしい。「桔梗様を目付けに行きますので。そうして是非とも桔梗様を、お見付けしなければなりません」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お、もう万家嶺だ! もうあと二つしきやない」かう思つた私は身を起した。その時にもその大きな丸髷は暁の光のまざつたの中にくつきりとあらはれて見えてゐた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
これは春秋の時呉王が人民とまざって飲もうとするを伍子胥ごししょいさめて、昔白竜清冷の淵に下り化して魚となったのを予且よしょという漁者がその日に射てた、白竜天に上って訴えると
群集の中に立ちまざり、香具師の様子に眼を付けていた。尾張中納言宗春は、此時スタスタと歩き出したが、境内中門の前まで来ると、ピタリとばかり足を止めた。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それと等しくヒルデプランチアも元海に生えたが繁殖の余勢で淡鹹両水のまざった江に侵入しそれから高地の急流や滝が岩を打つ勢いちょうど海波が磯を打つにひとしき処に登って生存し居るらしい
梵天帝釈大王の殺生を恐れて国を捨て、猿猴の恩を知って南海に向う事を憐れと思して、小猿に変じて数万の猿の中にまざりていうよう、かくていつとなく竜宮を守るといえども叶うべきにあらず
その水路が曲った所に、石楠花しゃくなげの花が咲いていた。小狸蘭の薄紫の花、車百合の斑点はんてんのある花、蟹蝙蝠草かにこうもりそうの桃色の花、そうして栂桜つがざくらの淡紅色の花は、羊歯しだや岩蘭とまざり合い、虹のように花咲いていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)