陽光ひかり)” の例文
峰の斜面は陽光ひかりを受けて虹のように燦然さんぜんと輝き返り、その岨道そばみちを大鹿の群が脚並み軽く走ってはいるが、人の姿は影さえもない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間からアセチリン瓦斯がすがぶくぶくと泡を噴いた。泡は真夏の烈しい陽光ひかりの中できらきらと光ったりしては消えた。
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
口腔をだらしもなく虚空こくうに向けて歯をむき出し、二つの鼻腔から吐き出す太い二本の煙の棒で澄明な陽光ひかりを粉砕した。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
門の傍の教會、路、靜寂な丘、すべては秋の日の陽光ひかりの中に靜かにやすんでゐる。地平線は眞珠色の大理石模樣をした、快晴の青空に限られてゐる。
小春日和こはるびよりともいうべき暖かい日でして、私たちは午後の陽光ひかりを浴びながら、釣り竿を担いで色々の話に笑い興じ、元気のよい歩調で野道を歩いてゆきました。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わけてもこの『ミュゼット』の飛躍的な美しさは、燦々としてに降る春の陽光ひかりのようでもあり、珠玉の飛泉のほとりに、羽衣霓裳ういげいしょうをかかげて踊る天女の群れのようでもある。
死体は草の間にうつ伏せになって、からの陽光ひかりが斑に当っていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
生の争闘を争闘せる人々の剣戟の音を聴きつゝ、私は遥かなる森の廃寺の前に立つて、老木の梢に梟の声を聴き、またはかげらふ正午まひる陽光ひかりを浴びつゝ怠惰な安易を貪つてゐるのではないだらうか。
沈黙の扉 (新字旧仮名) / 吉田絃二郎(著)
昨日今日の日和ひよりに、冬の名残なごりんやりと裸体からだに感ぜられながらも、高い天井てんじょうからまぶしい陽光ひかりを、はずかしい程全身に浴びながら、清澄せいちょう湯槽ゆぶねにぐったりと身をよこたえたりする間の、疲れというか
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
肉出来の珊瑚樹かとも、射し入る陽光ひかりを厭ひます。
陽光ひかりめぐる花々や
卵色の陽光ひかりが窓から射して、しんと静かな画廊へ来た時、たった一匹だけ毒蛇コブラを描いた小さい額を見付けました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長い白いひげを垂れて日当たりのいい南の廊下で、暖かい陽光ひかりを浴びて咲き輝いている鉢植えの福寿草を前に、老眼鏡をかけて新聞を読んでいるのや、北海道辺の新開地の農夫が
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
陽光ひかりの中にて彼眠る、片手を静かな胸に置き
射し込んでいる陽光ひかりは、地上へ、大小の、円や方形の、黄金色こがねいろの光の斑を付け、そこへ萠え出ている、すみれ土筆つくしなずなの花を、細かい宝石のように輝かせ、その木洩こもかよの空間に
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
郷里ふるさとあこがれ、春の陽光ひかりを待ちわびている孤独な人達が、そろそろ雪が消えて、まばらに地肌ぢはだが見えかけて来た時、雪間ゆきまがくれに福寿草の咲いているのを見たら、どんなによろこぶことでしょう。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
家の背後うしろで、冬の陽光ひかりを浴びる時、彼は
そして崩れ切った谷底には大河が流れているらしいが水は氷にざされて木の間を洩れて陽光ひかりにわずかにキラキラと輝くばかり、谷を隔てた向こうの峰までは三町余りもあるだろうか
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)