間諜かんちょう)” の例文
間諜かんちょうの老寺男が毎晩うずくまって祈祷きとうの文句を鼻声でくり返しながら人をうかがってる場所と、その古ぼけたぼろとを借りうけた。
要監視人ようかんしにん通告書」という紙がっていて、そこに、「間諜かんちょうフン大尉の件」という見出しのついていたのを、目敏めざとく読みとった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
という間諜かんちょうの報らせが入った日、姫路の黒田宗円からも、それと同じ早打ちが来た。もう疑う余地もない出来事である。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで近頃イギリスの官憲がういう独逸人を間諜かんちょうじゃないのかと疑い出し、我が国の外務省も気兼ねをしながら、印度入りの旅券を下附してくれますが
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
間諜かんちょうという奴は実に油断のならぬものです。まるで手品師ですからね。どんな小さな隙間すきまからでも入って来るのです。そして忽ち諜報網を張りめぐらしてしまう。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上方から間諜かんちょうがこの上野の境内へ入り込んでいる、ドコにどういう奴が幾人入り込んでいるか、そのことはわからないが、その目的だけは、はっきりわかっている
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
H21というのが、ドイツの間諜かんちょう細胞としての、マタ・アリの番号だった。彼女のとおり名だった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
何事も心得ながら白々しらじらしく無邪気を装っているらしいこの妹が敵の間諜かんちょうのようにも思えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
入り込んで来る間諜かんちょうを警戒する際で、浪士側では容易にこの三人を信じなかった。その時応接に出たのは道中がかりの田村宇之助たむらうのすけであったが、字之助は思いついたように尋ねた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おもうに彼が外国に航せんと欲したるは、種々の企謀ありしに相違なしといえども、そのおもなる点は、則ち彼を知り己れを知るの意にして、以て一種の間諜かんちょうたらんと欲したりしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
仁科少佐を助けて、敵の間諜かんちょうや密偵と闘って、いつも最後の勝利を獲得せしめている人は誰でしょうか。次の物語を読んで頂けば、きっと皆さんにお分りになってもらえると思います。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ほんとに人間の心の間諜かんちょうなんてものが、みんなどこかへ消えてなくなりゃあいいんだ! さあ、これがおれとカテリーナ・イワーノヴナとのあいだにあった『事件』の全部なんだよ。
……ですから一生懸命にすきを見つけて、白軍の方へ逃げ込んで来たのですが、それでもどこに赤軍の間諜かんちょうが居るかわかりませんからスッカリ要心をして、口笛や鼻唄にも出しませんでしたが
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あいつがおれの思うこと一切を世間へ告げ散らしている、あの兇鳥まがどりが……あいつはおれの臆病な敵の間諜かんちょうだ……」彼にはまたしてもこの電流のようにすばやいひらめきがあわれにも感じられて来た。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
ベービの間諜かんちょう、灰、ザーミとの場面、謝肉祭、さし迫ってる恥辱。彼女はそんなことを話しながら、恐怖のあまり自分でこしらえ出した事柄と、当然恐るべき事柄とを、もう見分けがつかなかった。
そしてまた、その男からいつも施しを受けている元寺男で今は間諜かんちょうになってる乞食こじきじいさんが、更にやや詳しい話をもたらした。
「不敵な東方の間諜かんちょう! もはやもがいてものがれぬところだ、岩を噛んで飢うるよりは、いさぎよく死をうけろッ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表面の辞令をいただかないお目附めつけだ、悪く言えば間諜かんちょう、ペロで言えばスパイというやつかも知れないが、決して下等な仕事じゃない、柳生但馬もやれば、石川丈山もやった仕事なんだ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このつらい意識はすぐにまた倉地に響くようだった。倉地はともすると敵の間諜かんちょうではないかと疑うような険しい目で葉子をにらむようになった。そして二人ふたりの間にはまた一つのみぞがふえた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
実はその間諜かんちょう一味は××人なのである。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それは御免こうむります、市長殿。そんなことはあり得べからざることです。市長が間諜かんちょうに向かって握手を与えるなどということが。」
「いや、そんなはずはない。たしかにあやしい男と老婆ろうばとが、密談みつだんいたしていたのを、間諜かんちょうの者が見とどけたとある。この上は自身であらためてくれる」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間諜かんちょうを銃殺し、反逆者を処刑し、生ける者を捕えて未知の暗黒界に投げ込む。死を使用する。そしてこれは重大なことである。
「おお、そちは番小屋の燕作、さてはなんぞ、伊那丸がたの間諜かんちょうでも、立ちまわってきたと申すか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一の虚言をもなし得ないこの間諜かんちょう、この純粋無垢むく探偵たんていを、長い間研究しており、更にまたマドレーヌ氏に対する彼の昔からのひそかな反感や
「ウム、いつも間諜かんちょうやくは竹童の得意とくい、おまかしなされてはどうでござりましょう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無慈悲な間諜かんちょうであり、恐るべき正直さであり、冷酷なる探偵であり、名探偵ヴィドックのうちに住むブルツスであった。
「むろん、米沢あたりにも、一人や二人の間諜かんちょうは。——これも、尽きぬ御縁」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜が明くるにおよんで、彼は怜悧れいりな二人の手下を残して見張りをさせ、あたかも盗人に捕えられた間諜かんちょうのように恥じ入って、警視庁へ引き上げた。
で——今の勤番者が、千坂の間諜かんちょうであることもよく見え透いていた。辻咄の徳西だの、木村丈八などという曲者が、そこらで、自分のことばや挙動を見ているなという程のことも察せられた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
rascal, rascalion(卑劣漢)—— raille, 間諜かんちょう
「阿波へ入りこもうとする江戸の間諜かんちょう! すなおに吾々と同行しろッ!」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間諜かんちょうッ。敵の間諜。——もう逃げられはせんぞ。みぐるしいざまは止せ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては、法然にいいふくめられわれらの動静を間諜かんちょうしにうせたな」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間諜かんちょうだな、この野郎」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)