門跡もんぜき)” の例文
そして青年期をまえに、大覚寺へ入り、やがて門跡もんぜきの座についた。——もしそのままであったら、それもまた、よいといえないこともない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前記、ぼくが一しょに浅草学校へかよったちゃァちゃんというのは、そこの長女で、後に、門跡もんぜきまえの仏具屋にかたづいた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「ところで、その寺男の釜吉といふのが、大きな荷物を背負つて來たと言つたが、門跡もんぜき前の寺から此處までの道順と、時刻を調べたことだらうな」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
仁和寺にんなじ、大覚寺をはじめ、諸門跡もんぜき比丘尼御所びくにごしょ、院家、院室等の名称は廃され、諸家の執奏、御撫物おさすりもの祈祷巻数きとうかんじゅならびに諸献上物もことごとく廃されて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新堀のみぞへついて、菊屋橋から門跡もんぜきの裏手を真っぐに行ったところ、十二階の下の方の、うるさく入り組んだ Obscure な町の中にその寺はあった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日光門跡もんぜきの下屋敷のあるみくみ町に、小さな娼家のかたまった一画がある。岡場所といわれるもので、棟割り長屋が並んでおり、一軒に女が二人ときめられていた。
「きょうは奥のお使いで門跡もんぜきさまの方まで参りましたから」と、彼女は言った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あの門跡もんぜきさまのお説教を聞くものは、これまでの罪が消えて、地獄へ行くものも極楽へ行ける」というような意味の母親のことばを耳にしながら、暗い広い殿堂のなかに坐っていた子供は
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
摂家宮せっけのみや門跡もんぜき方、その他使者楽人、三職人御礼。溜詰御譜代衆、お役人出仕。御対顔済み、下され物あり。御饗応前、お能見物の儀、御三家、両番頭ばんがしらの内。御返答につき、公家衆地下一統出仕。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この屏風びょうぶは、醍醐の百羽烏として有名な長谷川等伯の筆、こちらが門跡もんぜきの間でございます、あの違棚が、世に醍醐棚と申しまして、一本足で支えてございます、その道の人が特に感心を致します
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
八月十四日 渋谷慈鎧じがい真如堂より毘沙門びしゃもん門跡もんぜきに栄転せられしを祝す。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
近衛このえ殿老女村岡、御蔵おくら小舎人こどねり山科やましな出雲、三条殿家来丹羽豊前ぶぜん、一条殿家来若松もく、久我殿家来春日讃岐さぬき、三条殿家来森寺困幡いなば、一条殿家来入江雅楽うた、大覚寺門跡もんぜき六物ろくぶつ空万くうまん、三条殿家来富田織部。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
仁和寺にんなぢ門跡もんぜきます花の日と法師幕うつ山ざくらかな
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
わざと門跡もんぜきの中を抜けて、奴鰻やっこうなぎの角へ出た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とらわれの僧忠円は、宮が梶井の梨本なしもと門跡もんぜきとしておわした頃の侍僧じそうである。べつな意味では近臣といってもいい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まだ外に、釜吉といふ五十年配の寺男がゐますが、門跡もんぜき前まで使ひに出てゐたさうで、ぼんやり歸つて來たところを、三輪の萬七親分に縛られてしまひましたよ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
それは浅草の門跡もんぜき前に屋敷をかまえている桃井弥十郎という旗本の次男で弥三郎という男、ことし廿三歳になるが然るべき養子さきもないので、いまだに親や兄の厄介になってぶらぶらしている。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これはだいぶ長時間いて戻ったが、その間にも聖護院の門跡もんぜき、諸山の僧、都下の富豪や諸職の名ある人々など、個人または公人として出入の絶え間もなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「田原町を出たのは薄暗くなつてから、ホロ醉ひ機嫌で、鼻唄なんか歌つて門跡もんぜき前まで來ると、いきなり一人の女が、前から飛んで來て、ドカンと突き當るぢやありませんか」
また元のごとく剃髪ていはつの姿に帰り、門跡もんぜきの位置におさまることが望ましい。さように宮へ、すすめ申せ
「聖光院門跡もんぜき範宴少僧都、師の僧正のいたつきのため、召しを拝して、代りにまかり出でました」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「玉日……」と、声なくいってみるだけでも幾らかの苦悶のなぐさめにはなる気がしたが、とたんに、自己のすがたを振向いて、聖光院門跡もんぜき範宴という一個の人間を客観すると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聖光院門跡もんぜきの栄位と、あらゆる一身につきまとうものを、この暁方あけがたかぎり山下さんかに振りすてて、求法ぐほう一道いちどうをまっしぐらに杖ついて、心の故郷ふるさとである叡山えいざんに登ってきた彼なのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大坂本願寺の門跡もんぜき顕如上人けんにょしょうにんの使いらしき僧が、二条のおやかたを去って、何やらあわただしゅう立ち帰って行きました。——先頃から、僧徒と将軍家との往来に、怪訝いぶかしいものを感じまするが」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)