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鐵砲玉
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てつぱうだま
鐵砲玉は
麥藁の
籠へも
入れられた。
與吉はそれを
大事相に
持つては時
ゝ覗きながら、おつぎが
炊事の
間を
大人しくして
坐つて
居るのであつた。
紛れるともなく經つた、ある日のこと、平次の家へ
鐵砲玉のやうに飛込んで來たガラツ八。
たべものに
掛けては、
中華亭の
娘が
運ぶ
新栗のきんとんから、
町内の
車夫が
内職の
駄菓子店の
鐵砲玉まで、
趣を
解しないでは
置かない
方だから、
遲い
朝御飯に
茶漬けで、さら/\。
與吉が
頭へ
手をやる
時に
菓子は
足下へぽたりと
落ちる。
與吉は
慌てゝ
菓子を
拾つては
聲を
立てゝ
笑ふのである。
菓子は
何時までも
減らないやうに
砂糖で
固めた
黒い
鐵砲玉が
能く
與へられた。
頭から
落ちてころ/\と
鐵砲玉が
遠く
轉がつて
行くのを、
倒れながら
逐ひ
掛けて
行く
與吉を
見て
卯平のむつゝりとした
顏が
溶けるのである。
與吉は
躓いて
倒れても
其時は
決して
泣くことがない。