遠雷えんらい)” の例文
どこかでは既に雨が降っているのか、白く光って見あげるようにむくむくともりあがった入道雲の方向で、かすかな遠雷えんらいのとどろきがして居る。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
西は明るいが、東京の空は紺色こんいろに曇って、まだごろ/\遠雷えんらいが鳴って居る。武太ぶたさんと伊太いたさんが、胡瓜きゅうりの苗を入れた大きな塵取ごみとりをかゝえて、跣足はだしでやって来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
獅子しゝ友呼ともよび!。』と一名いちめい水兵すいへいさゝやいた。成程なるほど遠雷えんらいごと叫聲さけびごゑ野山のやま響渡ひゞきわたると、たちま其處そこもりからも、彼處かしこ岩陰いはかげからも三頭さんとう五頭ごとう猛獸まうじうぐんをなしてあらはれてた。
雨乞あまごいの雨は、いづれ後刻ごこくの事にして、其のまゝ壇をくだつたらば無事だつたらう。ところが、遠雷えんらいの音でも聞かすか、暗転に成らなければ、舞台にれた女優だけに幕が切れない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
振り向いて見ると、彼の愛犬はまるでおおかみのように、背中の毛を逆立て、上唇に恐ろしいしわを寄せ、歯をむき出して、のどの奥で遠雷えんらいみたいな音を立てている。どうも不思議だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、遠雷えんらいのような群衆ぐんしゅうのどよめきが、あとしばらくのあいだ、空にえなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こくは、草木くさきねむる、一時いちじ二時にじとのあひだ談話だんわ暫時しばし途絶とだえたとき、ふと、みゝすますと、何處いづこともなく轟々ごう/\と、あだか遠雷えんらいとゞろくがごとひゞき同時どうじ戸外こぐわいでは、猛犬稻妻まうけんいなづまがけたゝましく吠立ほえたてるので