道頓堀どうとんぼり)” の例文
そして送られた稿料で膨らんだ蟇口を押えながら、小村が文豪然と気取りながら道頓堀どうとんぼりあたりの盛場を、漫歩していたことは疑いもない。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
辿たどってゆくと、この中の第二景「大阪道頓堀どうとんぼり」のところで例の三人のうち、紅黄世子だけが他の二人に別れて出演するのだ。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第一に彼は妻と二人きりで外を歩く場合の、———此処ここから道頓堀どうとんぼりまでのほんの一時間ばかりではあるが、お互の気づまりな道中が思いやられた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
道頓堀どうとんぼりに芝居などを見に行ったその帰りみちに、ちょっと牡蠣船にはいって一杯やるようなことを想像したのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
よほど以前、私は道頓堀どうとんぼりで大阪の若い役者によって演じられた三人吉三さんにんきちざを見た事があった。その芸は熱心だったが、せりふのいやらしさが今に忘れ得ない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
僕たちの宿は、道頓堀どうとんぼりの、まっただ中。ほてい屋という、じめじめした連込み宿だ。六畳二間に、われら七人の起居なり。けれども、断じて堕落はせじ!
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大阪からぐに東京へ向おうとしていた牧野と、京都の方に巴里馴染なじみの千村や高瀬をたずねながら東京へ帰って行こうとしていた岸本とは、道頓堀どうとんぼりの宿で別れた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道頓堀どうとんぼりの芝居に与力よりき同心どうしんのような役人が見廻りに行くと、スット桟敷さじきとおって、芝居の者共ものどもが茶をもって来る菓子を持て来るなどして、大威張おおいばりで芝居をたゞ見る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
粕饅頭かすまんじゅうから、戎橋筋えびすばしすじそごう横「しる市」のどじょうじる皮鯨汁ころじる道頓堀どうとんぼり相合橋東詰あいおいばしひがしづめ出雲屋いずもや」のまむし、日本橋「たこ梅」のたこ、法善寺境内「正弁丹吾亭しょうべんたんごてい」の関東煮かんとだき
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
四天王寺の日除地ひよけち、この間までの桃畑が、掛け小屋ごや御免ごめんで、道頓堀どうとんぼりすくってきたような雑閙ざっとうだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう三年にもなるかな、大阪の道頓堀どうとんぼりでね、人にもまれて歩いていると、うしろから肩を叩く奴があるんだ。そして、ヤア何々さんじゃありませんか、暫くでしたね、というんだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
淀川よどがわを控えて、城を見て——当人寝が足りない処へ、こうてりつけられて、道頓堀どうとんぼりから千日前、この辺のにえくり返る町の中を見物だから、ぼうとなって、夢を見たようだけれど、それだって
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然う歩きもしないが兎に角立ち詰めだったから道頓堀どうとんぼりで休んだ時はくつろいだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
笹村はもう道頓堀どうとんぼりにも飽いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
例えば道頓堀どうとんぼりに浮ぶ灯とボートの群が、真夏ではただ何かき立って見えるけれども、九月に入ると湧き立ち燃え上るようなほのおが日一日と消え去って行く。
流石さすがに胸が迫った。道頓堀どうとんぼり行進曲もにぎやかに、花道からズラリと六人の振袖ふりそで美しい舞妓まいこが現れた!
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんでも夏の初めのことで父は妹の夫婦、わたくしの叔父おじ叔母おばにあたります人と道頓堀どうとんぼりの芝居に行っておりましたらお遊さんがちょうど父のまうしろの桟敷さじきに来ておりました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しばらく彼は書記官としての自分の勤めも忘れて、大坂道頓堀どうとんぼりと淀の間を往復する川舟、その屋根をおおう画趣の深いとま、雨にぬれながらを押す船頭のみのかさなぞに見とれていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
誰れでもが知っている銀座のタイガアを道頓堀どうとんぼりの美人座でごまかして置く訳には行かない。
会社の規模が非常に大きいこと、そこの工場の構内には映画館でも道頓堀どうとんぼりの松竹座ぐらいのものが建っていること、などを語ったが、井谷が好い加減なところで話のりを戻すように努めて
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
●第二景・大阪道頓堀どうとんぼり
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
誰れでもが知っている銀座のタイガアを道頓堀どうとんぼりの美人座でごまかして置く訳には行かない。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
きんの一緒に御飯食べたことや映画見に行ったこともういつの間にやら知れ渡ってて「柿内さん、あんたきんの道頓堀どうとんぼり歩いてなさったなあ」「お楽しみやなあ」「あれ一体誰やったなあ」なんて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは一つには、私が純粋の大阪の町人に生れ、道頓堀どうとんぼりに近く、何んとなく卑近なものにのみ包まれて育ったがために、高貴上等の何物も知らなかったという点もあると思われる。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)