かたじけの)” の例文
歌の事につきては諸君より種々御注意御忠告をかたじけのうし御厚意奉謝しゃしたてまつり候。なほまたある諸君よりは御嘲笑ごちょうしょう御罵詈ごばりを辱うし誠に冥加みょうが至極に奉存ぞんじたてまつり候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「まま眠りかねる夜もありましたが、昨夜はよくやすみました。何くれとなくお心づけ、かたじけのうござった。出陣の後も、何か薬餌やくじりましょう」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嗚呼ああ、先生なんぞ予をあいするの深くしてせつなるや。予何の果報かほうありて、かかる先生の厚遇こうぐうかたじけのうして老境ろうきょうなぐさめたりや。
吾輩は幸にして此諸先生の知遇をかたじけのふするを得てこゝに其平生を読者に紹介するの光栄を有するのである。
猫の広告文 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ついでながら、森口君の頒暦師中尾氏等は由緒正しい旧家であって、決して唱門の仲間ではないから、その冤をすすぐようにとの注意をかたじけのうしたことについて一言したい。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
寵命ちょうめいかたじけのうしたからには、どうして辞退いたしましょう。ただ私には七十になる老母があって、他に養う人がありません。どうか老母が天年を終るまで、お許しを願います。」
考城隍 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その総理教員なる者は、以前は在官の栄誉をかたじけのうしたる身分にして、にわかに私立の身となりては、あたかも栄誉を失うの姿にして、心を痛ましむるの情実あるべしというものあり。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼は故郷に屏居へいきょせしめられたるにかかわらず、知を藩主にかたじけのうし、再び十年間遊学の許可を得、嘉永六年正月萩を発し、芸州より四国に渡り、大坂に達し、畿内を経、伊賀より伊勢に入り
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その好意はかたじけのう思いながらも、いつも辞退してばかりいた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
随斎が撰した『房山集』の序に「予ハすなわチ竹渓先生ト忘年ノ交ヲかたじけのフス。子寿モマタ推シテ父執トナシ時時来ツテソノ文字ヲ質ス。予乃チソノ美ヲ賛揚シソノヲ指摘ス。子寿欣然きんぜんトシテコレヲ受ケ改メズンバカザルナリ。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
待ツノ止ム可カラザルニ至レリ居ルコト年余偶々たまたまぼうヲ理科大学助手ニ承ケ植物学ノ教室ニ仕フ裘葛きゆうかつフル此ニ四回時ニ同学新ニ大日本植物誌編纂ノ大業ヲ起コシ海内幾千ノ草木ヲ曲尽シ詳説しょうせつけいトシ精図ヲトシ以テ遂ニ其大成ヲ期シまことニ此学必須ひっすノ偉宝ト為サント欲ス余幸ニ其空前ノ成挙ニ与リ其編纂ノ重任ヲかたじけのフスルヲ
「御内意、かたじけのうござる。だが、多分それがしは欠席申すやもしれぬ。その折には、君前よしなにお取りつくろいねがいたい」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、——その後色々朋友ほうゆうや先輩の尽力をかたじけのうしたが、近頃ある知人の周旋で、某新聞の経済部の主任記者にならぬかとの勧誘を受けた。自分も遣ってみたい様な気がする。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
室町時代なお正従三位の栄位をかたじけのうしていたほどである。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
参謀長参謀管理部長代る代る来りて慰問をかたじけのうす。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
下等な書生のうちには猫を食うような野蛮人があるよしはかねて伝聞したが、吾輩が平生眷顧けんこかたじけのうする多々良君その人もまたこの同類ならんとは今が今まで夢にも知らなかった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)