身扮みなり)” の例文
小柄の三十前後、大店の若主人らしい、渋好みの身扮みなりから、浅黒い引締った顔など、いかにも世馴れ、遊び馴れた心持の男前です。
翌日の夕刻になると、羅門は、常になくいそいそとして、黒龍紋くろりゅうもんかみしもはかま身扮みなりも隙なく、若年寄小笠原左近将監の邸へ出向いて行った。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあたりは押し返されないほどの人混みの中へ、一人の身扮みなり卑しからぬ武士がともをつれて割込んで来ました。
揃ひの手拭てぬぐひ、叔母さんに達引かしたあはせ身扮みなりは氣の毒なほど粗末だつたが、きりやうは向島一帶をクワツと明るくしたお糸ですよ。
歩かされて、城下のおんなどもにまで、この顔をありありと見覚えられては、どう身扮みなりを変えても次にはすぐ見顕みあらわされてしまう
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お松は船の仕事着ではなく小綺麗こぎれい身扮みなりをして、船着場の茶屋に待っています。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
利三郎が指さしたのは、二十七八の美しい年頃、泣き濡れては居りますが、身扮みなりや容貌から言ふと、唯の奉公人ではない樣子です。
身扮みなりはそんなに惡くはなく、顏立も惡いほどではないのですが、お喜代の死顏のあやしい美しさにくらべると、これは唯の女にしか過ぎず。
林太郎と同じ寶物藏のこれは階下の唐櫃からびつの中に入れられてゐたのを救ひ出して身をきよめさせ、身扮みなりを改めてこゝへ呼出したのです。
林太郎と同じ宝物蔵のこれは階下の唐櫃からびつの中に入れられていたのを救い出して身をきよめさせ、身扮みなりを改めてここへ呼出したのです。
蒼白い顔が少し弱々しく見えますが、粗末な身扮みなりに似合わぬ美しさで、存分に装わせたら、お喜多に劣らぬ容貌きりょうになるでしょう。
客といふのは四十五六の立派な仁體にんてい身扮みなりは地味で目立ちませんが、行屆いたたしなみで、何樣容易ならぬものを感じさせます。
「見たことのない武家ださうで、——若くて好い男で、身扮みなりも惡くなかつたが五へんも六遍も店を覗く樣子は變だつたさうですよ」
平次も少し面喰めんくらひました。まだほんの十七八、身扮みなりは貧し氣な木綿物ですが、此界隈かいわいでも、あまり見かけた事のない良いです。
身扮みなりも定吉は小気のきいた丁稚姿で、松次郎は粗末ながら武家の子らしく、短かいのを一本差して、小倉のはかまを裾短かに穿いております。
身扮みなりを改めて、喪主もしゆをつとめさせるやうに、内儀と番頭へさう言つてやれ、——文句を言ふ奴があつたら、俺が話をつけてやる。
八五郎の剽輕へうきんな調子にさそはれるやうに、身扮みなりつた、色の淺黒い、キリリとした若いのが、少し卑屈ひくつな態度で、恐る/\入つて來ました。
八五郎の剽軽ひょうきんな調子にさそわれるように、身扮みなりった、色の浅黒い、キリリとした若いのが、少し卑屈な態度で、恐る恐る入って来ました。
『裏店小町』と言つたほどの御粗末な身扮みなりで、店番もし、使ひ走りもし、骨身を惜しまずに働いて居る癖に、その美しさは全く非凡でした。
蒼白い顏が少し弱々しく見えますが、粗末な身扮みなりに似合はぬ美しさで、存分によそほはせたら、お喜多におとらぬ容貌きりやうになるでせう。
五十二三の、しつかり者らしい女でした。身だしなみも立派、身扮みなりは地味ですが、折屈みや言葉づかひは、何んとなく江戸の匂ひがするのです。
二十四五にもなるでせうか、身扮みなりの整つた瓜實うりざね顏で、少し無氣力ではあるが、呉服屋の手代などにある、物柔かな色男でした。
身扮みなりもなか/\洒落れたもので、無駄飯を食ふ人間の淺ましい贅澤さが、死の極印ごくいんされてまでも、人の眉をひそめさせます。
昂然かうぜんとして顏をあげたのは、一寸良い男の浪人者御厩おうまや左門次でした。二十七八、身扮みなりもそんなに惡くはなく、腕つ節も相應にありさうです。
「こいつは親分だって驚くでしょう、それもザラの雌じゃねえ——若くて綺麗で、身扮みなりがよくて、小股こまたが切れ上がって——」
勘兵衞は訂正ていせいしてくれます。さう言へば、美しさも、身扮みなりの整つて居るにもかゝはらず、眉も齒も、娘姿に間違ひはありません。
身扮みなりから、身體の樣子、鑿胝のみぞこの具合を見ると、居職の——それも多分彫物師ほりものしと言ふところだらう——見知人がある筈だ、其邊で當つて見な」
これは三十そこ/\でせう、無造作な身扮みなり磊落らいらくな物言ひが特徴で、面長な色の白い、歌舞伎役者の誰やらに似てゐると言はれた好い男です。
萬筋まんすぢの野暮なあはせを高々と端折つて、淺葱あさぎの股引に素草鞋すわらぢ穿いた喜助は、存分に不景氣な身扮みなりのくせに、ちよいと好い男振りでもありました。
八五郎を臺所へ追ひやつた後へ、身扮みなりの立派な武家が二人、御大家の御使者見たいな尤もらしい顏をして入つて來ました。
八五郎を台所へ追いやった後へ、身扮みなりの立派な武家が二人、御大家の御使者見たいな尤もらしい顔をして入って来ました。
お夏はわずかにホッとした様子です。若さにも美しさにも似ぬ粗末な身扮みなりですが、全身から発散する魅力は、かえって楚々として人を動かします。
身扮みなりも言葉の様子も、町人かやくざでしたが、頬冠りの手拭の下に、ふくらんで居るまげの格好は、野郎頭やろうあたまじゃありません、あれは髷節が高くて
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
身扮みなりに相應した堅氣の娘なら、此茶は飮まなかつたかも知れませんが、お靜は水茶屋の女で、お茶をむことも汲ませることも馴れて居ります。
昂然こうぜんとして顔をあげたのは、ちょっと良い男の浪人者御厩おうまや左門次でした。二十七八、身扮みなりもそんなに悪くはなく、腕っ節も相応にありそうです。
「施米の時、姿を変えて来たのを、お前は気が付かなかったろう。身扮みなりを落すと、あの人は後光が射すほど綺麗だったよ」
昨日の町人とも武家ともつかぬ身扮みなりと違って、今日は堅鬢付かたびんつけでカンカンに結ったまげも、衣服、大小のつくりも、押しも押されもせぬ武家姿です。
昨日の町人とも武家ともつかぬ身扮みなりと違つて、今日は堅鬢付かたびんづけでカンカンに結つた髷も、衣服、大小のつくりも、押しも押されもせぬ武家姿です。
それに、色子や陰間に見るやうな、不潔な化粧や、不純なこびもなく、身扮みなりも思ひのほかに堅實で、武者人形にあるやうな清潔な可愛らしさです。
身扮みなりに相応した堅気の娘なら、この茶は飲まなかったかも知れませんが、お静は水茶屋の女で、お茶を汲むことも汲ませることも馴れております。
灯先へ顏を待つて來ると、色の白い、身扮みなりの小意氣な、柔和さうな若旦那型の男で、誰の目にも怪しさや不調和さは毛程も感じさせない人柄です。
「里言葉を使わないのが不思議なくらいでしたよ、身扮みなりは町人風武家風、いろいろあるが、間違いもなく日本人で——」
「お前に萬一のあやまちがあつちやならねえと思つて、新し橋にかゝる前に身扮みなりを變へたが、こんな弱い曲者なら、お前でも樂に扱へたかも知れない」
川からい上がったところをやられたとしか思えませんが、身扮みなりの立派な浪人者が、夜の大川へどんな目的で入ったかは見当もつかなかったのです。
洒落しゃれ身扮みなりをした上、役者の声色や、軽口に、物真似などを景物に、街から街と流したのですから、当時は人気のある商売だったに相違ありません。
兄の宗次郎というのは、三十前後の総髪、身扮みなりは至って粗末ですが、見るからに智的な人物、岡崎十次郎が主人に代って来意を申入れたのに対して
身扮みなりの物々しさから見て、それは、何處かお大名へでも使ひに行つた歸りか、谷中の寺へ墓參にでも來たものでせう。
三十五六の素晴しい大年増で、身扮みなりの派手なこと、顏の表情の大袈裟おほげさなこと、化粧の濃いことなど、年齡にも身分にも、場所柄にも不似合の感じです。
身扮みなりから、身体の様子、鑿胝のみだこの具合を見ると、居職いじょくの——それもたぶん彫物師ほりものしというところだろう——見知り人があるはずだ、その辺で当ってみな」
日手間ひでまを取つて居る植木屋の母親にしては、不相應なほど良い身扮みなりで、家の中の調度も思ひの外に整つて居ります。