あから)” の例文
琅玉はポッと顔をあからめ急に狼狽しはじめた。しかし彼女は次の瞬間には女官らしく威厳を取り返えし此様におもむろに云うのであった。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
思いも寄らぬ人の訪問と、思いもかけぬ贈り物にびっくりして、当惑したように顔をあからめて、モジモジしながら手を動かしている。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
女は顔をあからめたが、抱へて来た包の中から、一枚の綿入を出した。新しくはないが、綺魔に洗ひ、縫ひ畳んだ綿入を……。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「いいじゃありませんか。もうきまりのわりいお年でもないでしょう」おゆうは顔をあからめながら言って、二人を見比べた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
然し、楠本は平然として、あからみながら逃げ失せにけり/\などと言つてゐる。波子は立腹し、扉に鍵をかけて、散歩にでかけてしまつたことがあつた。
波子 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
似合たとい議論すればといっても、ほんとうに顔をあからめて如何どうあっても勝たなければならぬと云う議論をしたことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「だツてきまりが惡いんですもの………」とうそでない證據しようこといふやうに顏をあからめ、「をとこかたツてものは、他の事を其様に根堀ねほ葉堀はほりなさるもんじやないわ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その青年に、つい目と鼻の位置にすわられると、美奈子は顔をあからめて、じっとうつむいてしまう女だった。が、心のうちでは思った、何とう不思議な偶然チャンスだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『濟まなかつたわ。』と何氣なく言つたが、一寸目の遣場やりば困つた。そして、微笑ほゝえんでる樣な靜子の目と見合せると色には出なかつたが、ポッと顏のあからむを覺えた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「へへッだ! ——だって、啓ちゃんは動物園へ連れてってやっても、猿同士がおんぶしあってる事ちゃんと識ってて、顔をあからめるンですもの、もう天真じゃないわよ」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かく言いつつ珍しげに女のおもてのぞきぬ。白糸はさっとあからむ顔をそむけつつ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼のやり場にうろたえながら顔をあからめている女の様子に、弦之丞は初めて注意するのであった。しかしその身装みなり肌合はだあいは、どうみても、この辺の者らしくなく、江戸の下町に見馴れたつくりである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は単純に顔をあからめた。
温度 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
「カッチ語という言葉はまことに非文明な言葉で、話すことはできますけれど文字というものがないのです」とずかしそうに顔をあからめられた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「どうか又御心配下さるように……この上御心配かけては申訳がありませんけれど」と芳子は縋るようにして顔をあからめた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「どうせそうでしょうよ、これは私のお土産ですもの」お島は不快な気持に顔をあからめた。「でも笑談じょうだんにもそういわれると、厭なものね。子供が可哀そうのようで」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おふくろは色消いろけしにつつむで置くべきボロまで管はずぶちまけと、お房はさすがに顏をあからめて注意を加へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかし黙って俯向うつむいたまま、顔をあからめては居りました。
ゆき子は突然だつたので顔をあからめた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かう言つた女はまた顔をあからめた。かれは深く心を動かされずには居られなかつた。かれはぢつと女を見詰めた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そして初めて彼女は、羞ずかしそうに頬をあからめて、溶けんばかりのえくぼうかべながら私の方を見上げました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「どうしてさ」姉はっている子供に、乳房を出して見せながら、汗ばんだ顔をあからめた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)