貴人あてびと)” の例文
彼は得度とくどしがたき悪魔として女人にょにんを憎んでいるらしく、いかなる貴人あてびとの奥方や姫君に対しても、彼は膝をまじえて語るのを好まなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
只だ猶心に懸るは、恩人なる貴人あてびとの思ひ給はん程奈何いかゞなるべきといふ事なり。彼人はわれ舊に依りて羅馬にありてふみを讀めりとおもひ給ふならん。
大殿おほいどのの奧深くにばかりゐる、あの源氏といふ貴人あてびとは、どんなにか、つくろはぬたみの聲に心をひかれたことだらう。
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
むかしから物語ものがたりほんにもある、むね白羽しらは征矢そやつか、もなければ狩倉かりくらとき貴人あてびとのおまつて御殿ごてん召出めしだされるのは、那麼あんなのぢやとうはさたかかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仲麻呂の眉は集つて来て、皺一つよらない美しい、この中老の貴人あてびとの顔も、思ひなしくすんで見えた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かかる貴人あてびとにあわんことたやすからず、隊つきの士官などの常の訪問というは、玄関のかたえなる一間にかれて、名簿に筆染むることなればおもうのみにてやみぬ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夢のしなへの逸樂いつらくは、今、貴人あてびとの車にぞ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
貴人あてびとと知らで参らす雪の宿 之兮しけい
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
君戀ひわたる貴人あてびと
ソネット (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
否運ひうんひて志を屈せずしてこそ人たる甲斐はあれ。汝の氣力あり技倆あるを、傲慢なる羅馬の貴人あてびとに見せよ、世間に見せよ。詩人はいやしきわざにあらず。
もとよりところの習にては、冬になりて交際の時節ぬ内、かかる貴人あてびとに逢はむことたやすからず、隊附の士官などの常の訪問といふは、玄関のかたえなる一間にかれて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
づうと這入つて来た身狭むさ乳母おもは、郎女の前に居たけを聳かして掩ひになつた。外光の直射を防ぐ為と、一つは、男たちの前殊には、庶民の目に貴人あてびとの姿をさらすまいとするのであらう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
いかに磨かぬ珠だといっても、この寒空にむかって肌薄な萌黄地の小振袖一重で差し出すのは、自分の恥ばかりでない、貴人あてびとに対して礼儀を欠いているという懸念けねんもあった。使者もそれを察していた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
されどわざとならぬ其罪をあがなはんとてこそ、車上の貴人あてびとは我に字を識り書を讀むことを教へしめ給ひしなれ。
ずうと這い寄って来た身狭乳母むさのちおもは、郎女の前に居たけをそびやかして、おおいになった。外光の直射を防ぐ為と、一つは、男たちの前、殊には、庶民の目に、貴人あてびとの姿をさらすまい、とするのであろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)