あらそ)” の例文
のちにあらそいのたねになった娘のことで、私がひどく怒り、三人でなにかしていたのを放りだして、私だけさっさとそこをたち去りました
橋の下 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女はもうジューシエとのあらそいのほうへ心を取られていた。ただオリヴィエ一人がエマニュエルの当惑に気づいた。そしてその様子を見守った。
人間は或は現実を唱へ、或は夢想をとなへて、之を以て調和す可からざる原素の如くあらそへる間に、天地の幽奥は依然として大なる現実として残れり。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
然し要するに自他を傷つくる爆弾であった事もあらそえません。早速妻が瀕死の大病にかかり、四ヶ月を病院に送りました。生命を取りとめたが不思議です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二人ともにあらそうに断決する能わず、黙然として言なく〉、たとえば、白羊、人の殺すに至っても声をす能わざるがごとし、これを唖羊僧と名づくとある。
母親と大きな声でいいあらそったりするのを見かねて、もう七十余りにもなる主人の母親というのが双方の仲に入って、ちょっと口を利きかけていたのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「駄目です」と私は気が立っていたから言下に一喝いっかつした。「もうこのあらそいはあなた方の諍いではありません。私とあの会社との諍いです。私は重大な侮辱を受けた。 ...
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二人は真実に愛し合っている癖に、始終あらそいばかりしていました。が、さてあの人はもうこの世にいないと思うと、この先どうして生きて行っていいか分らなくなります。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
怒りあらそひて其心に逆ふべからず。女は夫を以て天とす。返々かえすがえすも夫に逆ひて天の罰を受べからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あらそえば諍うほど、お増は自分を離れて行く男の心の冷たい脈摶みゃくはくに触れるのが腹立たしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、健は、うしてつたんだと果しなくあらそつてるのが、——校長の困り切つてるのが、何だか面白くなつて来た。そして、ツと立つて、解職願をまた校長の卓に持つて行つた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と云い、乙女が思わずかっとなってあらそった。そのことを云っているのであった。
小祝の一家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と川柳子も諷刺ふうししておりますが、いたずらに私どもは、自力だ、他力だ、などという「宗論」のあらそいに、貴重な時間を浪費せずして、どこまでも自分に縁のある教えによって、その教えのままに
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
はじめ席次のあらそいがあったとき、罪科の申渡しをしたのは主水であり、七十郎を同伴して出頭せよ、という旨を命じたのも彼であった。
恐るべきめいの激しい挑戦を引き起こすようなあぶな真似まねはしなかった。かくもよく回る舌を相手にあらそうことはとうていできなかった。何よりも彼は平穏を欲していた。
磯貝は悪く気を廻していたが、銀子も立ちながらあらそってもいられず、一緒にかえることにした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さもなければこの人たち同士の間であらそいでも始まったのではなかろうかと怪しんでいた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
話が途斷とぎれると、ザザーッといふ浪の音が、急に高くなる。楠野君は、二人のあらそひを聞くでもなく聞かぬでもなく、横になつた儘で、紙莨を吹かし乍ら、浪の穗頭を見渡して居る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
之を慎しむは男子第一のつとめなる可し。又夫の教訓あらば其命に背く可らず、疑わしきことは夫に問うて其下知に従う可し、夫若し怒るときは恐れて之に従い、あらそうて其心に逆う可らずと言う。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「始終親子でいいあらそいすることのあるのは、私もよく見て知っていますが、その口喧嘩のしぶりから見ると、どうも真実の母子でなかったら、ああではあるまいかと思われることもあります」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
会談が終って、出ようとしたとき、小屋の表で、真山刑部と里見十左衛門とが、人夫頭と見える男たち五人と、こわだかに云いあらそっていた。
話が間断とぎれると、ザザーツといふ浪の音が、急に高くなる。楠野君は、二人のあらそひを聞くでもなく、聞かぬでもなく、横になツた儘で、紙莨を吹かし乍ら、浪の穂頭を見渡して居る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人々の邪悪さと運命の酷薄さとの間にありながら、善良でありいつまでも善良であること……多くの苦々にがにがしいあらそいのうちにも温和と親切とを失わず、その内心の宝に触れさせずに経験を
これは早く帰属をきめておかぬと、やがてあらそいのもとになると思う、と志摩が云った。柴田外記は黙っていた。
その酒宴なかばに、主人主馬と南部八郎太の間にあらそいが起ったが、止める人があって何事もなく過ぎ、やがて酒宴も終って四つ上刻、人々は梁川邸を辞した。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
竹次といくとが激しくいいあらそっているのを見た……菊千代は独りで、森から丘へぬけて、知らない山道を下りて来ると、偶然かれらの田の脇へ出たのである。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「まあなんだ、三十まじゃあがまんするだね、嫁っ子を貰うも、出世をするもよ、……おめえの顔にそう出てえるだ、これあへえあらそえねえこんだからねえ、そうすれあ……」
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一ノ関の利分りぶんになるよう裁決した、涌谷と寺池(式部宗倫)との地境のあらそいも、両後見に対する六カ条の問題でも、貴方がどういう態度に出るかわかっている、ということです
それまで曾て口にしたことがないので、左内は初めなんのことか分らないようすだったが、香苗があの時のあらそいを見ていたのだと語ると、にわかにその頬を染めながら眼をらした。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
武家のなかでも、かたちこそ違うが、権力や名声のための、醜いあらそいが絶えないし、もっとも多数の、身分の低い者たちは、侍として最低の外聞を保つことにさえ、苦しんでいた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分の持ち地所と接する到るところで地境のあらそいを起こした。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「一ノ関と岩沼に対する六カ条の件、一ノ関領における金山きんざん所属の問題、こんどはまた涌谷と寺池のあいだに地境のあらそいが起こっています、これらも重要だが、家中には奥山どの弾劾の気運が、相当ひろく動きだしているようですが」