葉桜はざくら)” の例文
やがて五日ごろの月は葉桜はざくらしげみからうすく光って見える、その下を蝙蝠こうもりたり顔にひらひらとかなたこなたへ飛んでいる。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土手どてあがつた時には葉桜はざくらのかげは小暗をぐらく水をへだてた人家じんかにはが見えた。吹きはらふ河風かはかぜさくら病葉わくらばがはら/\散る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
西日にしびを受けたトタン屋根は波がたにぎらぎらかがやいています。そこへ庭の葉桜はざくらの枝から毛虫が一匹転げ落ちました。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
未だに葉桜はざくらごろの人の頭にピンと来るものがある。
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
酒の廻りしためおもて紅色くれないさしたるが、一体みにくからぬ上年齢としばえ葉桜はざくらにおい無くなりしというまでならねば、女振り十段も先刻さきより上りて婀娜あだッぽいいい年増としまなり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つゝみの上に長くよこたはる葉桜はざくら木立こだち此方こなたの岸から望めばおそろしいほど真暗まつくらになり、一時いちじ面白おもしろいやうに引きつゞいて動いてゐた荷船にぶねはいつのにか一さう残らず上流のはうに消えてしまつて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
葉桜はざくらの上に輝きそめた夕月ゆふづきの光がいかにもすゞしい。なめらかな満潮の水は「お前どこく」と流行唄はやりうたにもあるやうにいかにも投遣なげやつたふう心持こゝろもちよく流れてゐる。宗匠そうしやうは目をつぶつてひとり鼻唄はなうたをうたつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)