おっこ)” の例文
あんなに限って、そりゃきっと夢中になって、お前さんの事なんざおっことして、お宝を拾うから、とそのお前さんはかりごと、計略?
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やあ、太郎さんの独楽は溝の中へおっこちた。」とはやしましたから太郎は口惜しがって、泥に汚れたのを草の葉で拭きとって稍々やや力を入れて廻す。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お狐をおっことして、尻尾が欠けると、ちょいと振り向いたっきり、拾い上げようともせずにサッサと行ってしまった——なるほど、こいつは可怪しいや」
茂「此の間中独身者ひとりもので居るから、棚から物を卸そうとすると、砂鉢すなばちおっこって此様こんなに疵が付いたのさ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その楽しみが実はこちらの空隙になっていることにはなかなか気附かぬもので私が何の気もなく椅子を動かしたり断裁機を廻したりしかけると不意に金槌が頭の上からおっこって来たり
機械 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「そうですか」光君はポツンとおっこちたような返事をした。
錦木 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「早く来い、早く来い……面白いものがおっこってるぞ!」
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
おっこちようもんならそれっきりです——ふちや瀬でないだけに、救助船たすけぶねともわめかれず、また叫んだところで、人は串戯じょうだんだと思って、笑って見殺しにするでしょう、およぎを知らないから
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
い人だけにのぼせ上り、ずぶ濡れたるまゝ栄町の宅へ帰り、何うやら斯うやら身体を洗い、着物を着替えたが、たもとからどじょうが飛出したり、髷の間から田螺たにしおっこちたり致しました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ハッと思うと、私の身体はまん円い物の上へどしゃりッとおっこったのだ。はてな—ふわふわする。何ァんだ。他愛もない地球であった。私は地球を胸に抱きかかえて大笑いをしているのである。
夢もろもろ (新字新仮名) / 横光利一(著)
「面白いものがおっこってるよ。」
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
市「打込ぶちこんだと云って、先でおらって掛るから己だって黙ってはられねえから、手エひんねじって突いたら、向うの野郎逆蜻蛉をっておっこちたので、わし打落ぶちおとしたのではねえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
剃毛そりげたまった土間へころりとおっこちたでさ——兇状持きょうじょうもちにはしんかられて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金を持ってるから出せなんと云って私の頬片ほっぺためやアがったから、其奴そいつ横面よこつらった処が、脇差を抜いたから、私は一生懸命に泥坊/\と云って逃げる途端に、足を踏外して此処へおっこちたんだ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)