草鞋穿わらじば)” の例文
この大島高次郎という人は、若い時から草鞋穿わらじばきでたたき上げたほどな人ですから、なかなかしっかりした人物でありました。
よく使い込んである九尺の槍を杖にしてである、背に鎧櫃よろいびつを負い、はかま股立ももだちを高くからげて草鞋穿わらじばきの浪人者が昨日もここの長屋門を訪れた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やりかけておりました蒸籠せいろ修繕つくろいを片づけまして、煙草を一服吸うてから草鞋穿わらじばきのまま出かけましたのが、かれこれ四時頃で御座いましつろうか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
心覚えが、その折曲おれまがりの処まで、店口から掛けて、以前、上下の草鞋穿わらじばきが休んだ処で、それから先は車を下りた上客が、毛氈もうせんの上へあがった場処です。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向うの床几しょうぎには二人かけている。等しく草鞋穿わらじばきで、一人は赤毛布あかげっと、一人は千草色ちくさいろ股引ももひき膝頭ひざがしら継布つぎをあてて、継布のあたった所を手で抑えている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、そんなことに余り頓着とんちゃくする男では無いので、草鞋穿わらじばきの扮装いでたち甲斐甲斐かいがいしく、早朝から登山の準備にとりかかっていると、約束をたがえずに塚田巡査が来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
明日の朝一番にて東京に到らん方極めてみょうなり、身には邪熱じゃねつあり足はなお痛めど、夜行をとらでは以後の苦みいよいよもって大ならむと、ついに草鞋穿わらじばきとなりて歩み出しぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
した者が、草鞋穿わらじばきでテクテク三浦三崎などへ、出て行かなければならないのだからなあ。……そうは云ってもよい景色だの。一方は海岸一方は野原、秋草も綺麗に咲いているわい
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでお松は能勢様へ行って、お君のために稲荷様のお札をいただいて、帰りに和泉橋のところへ出ると、笠をかぶって袈裟法衣けさころも草鞋穿わらじばきの坊さんが杖をついて、さっさと歩んで来る。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雪袴に草鞋穿わらじばきの若い男女がついて、家の角を廻って見えなくなった。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
それすら彼は抑下よくげして一生、草鞋穿わらじばきで駕籠かごへも乗らなかった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
上野の戦争の場などは訳もなく大喝采で、福助の僧光仁が草鞋穿わらじばきで上野を落ちるくだりなど、その光仁が何びとであるかを想像して、ひそかに涙をぬぐう老人もあった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは腰蓑こしみので、笠をかぶった、草鞋穿わらじばきの大年増が、笊に上げたのを提げて、追縋おいすがった——実は、今しがた……そこに一群ひとむれうなぎなまずどじょう、穴子などの店のごちゃごちゃした中に
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道程みちのりがかなりにあることで、雨や雪の降る時は草鞋穿わらじばきなどで通うこともある。
そこへ笠を深くかぶった、草鞋穿わらじばきの、猟人体かりゅうどてい大漢おおおとこが、鉄砲てっぽう銃先つつさき浅葱あさぎの小旗を結えつけたのを肩にして、鉄の鎖をずらりといたのに、大熊を一頭、のさのさと曳いて出ました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
塚田巡査も町の若者もこれに加わって、一隊十四五名の人数にんず草鞋穿わらじばきの扮装いでたち甲斐甲斐かいがいしく、まだ乾きもあえぬ朝霜をんで虎ヶ窟を探りに出た。人々は用心の為に、思い思いの武器を携えていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)