花吹雪はなふぶき)” の例文
鰹舟かつおぶね櫓拍子ろびょうしほのかに聞こえる。昔奥州へ通う浜街道は、此山の上を通ったのか。八幡太郎も花吹雪はなふぶきの中を馬で此処ここを通ったのか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
シンミリと別れの言葉をいいのこして——そうでした——旅へでも立つように、名残を惜しんで、幾度いくたびも幾度も振り返りながら、花吹雪はなふぶきの闇の中へ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出立の時には蕾のふくらみかけてゐた櫻が、すツかり若葉になつて、花吹雪はなふぶき名殘なごりが少し見られるばかりであつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あまりの不思議さに我を忘れて、しばしがほどは惚々ほれぼれ傾城けいせいの姿を見守つて居つたに、相手はやがて花吹雪はなふぶきを身に浴びながら、につこと微笑ほほゑんで申したは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、楽園の中のジャズバンドが、ワーッと天変地異の様に鳴り響き、シャンパンがパンパン泡を吹き、花吹雪はなふぶきの下で、庭一杯の気違い踊りが始まるのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
春の日はきのうのごとく暮れて、折々の風に誘わるる花吹雪はなふぶきが台所の腰障子の破れから飛び込んで手桶ておけの中に浮ぶ影が、薄暗き勝手用のランプの光りに白く見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かすみにさした十二本のかんざし、松に雪輪ゆきわ刺繍ぬいとりの帯を前に結び下げて、花吹雪はなふぶきの模様ある打掛うちかけ、黒く塗ったる高下駄たかげた緋天鵞絨ひびろうど鼻緒はなおすげたるを穿いて、目のさめるばかりの太夫が、引舟ひきふねを一人、禿かむろを一人
ほかの紙風船は、室内にカーニヴァルの花吹雪はなふぶきのように散った。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
花吹雪はなふぶき
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
花吹雪はなふぶき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
横向にひさしを向いて開いた引窓から、また花吹雪はなふぶき一塊ひとかたまりなげ込んで、烈しき風の吾をめぐると思えば、戸棚の口から弾丸のごとく飛び出した者が、避くるもあらばこそ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若き空には星の乱れ、若きつちには花吹雪はなふぶき、一年を重ねて二十に至って愛の神は今がさかりである。緑濃き黒髪を婆娑ばさとさばいて春風はるかぜに織るうすものを、蜘蛛くもと五彩の軒に懸けて、みずからと引きかかる男を待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)