わた)” の例文
古び赤茶け、ところどころ破れ、わたを出している畳の上には、蘇枋すおうの樽でも倒したかのように、血溜りが出来ておりました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……あまつさえ、目の赤い親仁おやじや、襤褸半纏ぼろばんてん漢等おのこら、俗に——云うわた拾いが、出刃庖丁を斜に構えて、このはらわたを切売する。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、二羽が二羽とも、同じ一声の悲鳴と共に、田崎の手に首をねじられ、喜助の手に毛をむしられ、安の手に腹を割かれ、わたを引出されてしまった。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、自分が獲ったのであると思うと、一匹だって、捨てる気はしない。小屋へ帰ってから、彼は小太刀で腹をき、わたを去ってから、それを日向ひなたへ乾す。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だから、お八重さんは、勝気な血がどうしてもしずまらないと、いきの好いかつおを一本買ってわたをぬかせ、丸で煮て、ちょっとはしをつけたのを、下の者へさげたりする。
わたはまとめて、これは猫にやるのだ。彼は働いているつもりだ。忙しい。泡で白くなったおけの上へのしかかり、一心不乱である。が、着物をらさないようにしている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そしてこの性を抜いた豪華の空骸なきがらに向け、左右から両側になって取り付いている二階建の小さい長屋は、そのくすんだねばねばした感じから、つぐみわたの塩辛のようにも思う。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ケルバライが川べりでわたを抜いて洗っているのだ。が途中で立ちどまって、ぐるりを眺めた。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「コヽニ鮎ノわたモ取ットキマシタヨ」
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
海鼠わたがないかい。』
女が来て (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ましてや夕方近くなると、坂下の曲角まがりかど頬冠ほおかむりをしたおやじ露店ろてんを出して魚の骨とはらわたばかりを並べ、さアさアたいわたが安い、鯛の腸が安い、と皺枯声しわがれごえ怒鳴どなる。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのわたを二升瓶に貯える、生葱なまねぎを刻んでね、七色唐辛子を掻交かきまぜ、掻交ぜ、片襷かただすきで練上げた、東海の鯤鯨こんげいをも吸寄すべき、恐るべき、どろどろの膏薬こうやくの、おはぐろどぶ
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気絶はさせたが処置に困り、たたずんでいる勘助の足もと、表の備後がすっかり擦り切れ、わたを出している畳の上に、散乱している飯や煮附け、茶碗や皿の間には、お吉が延び倒れている。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
魚のはらは、僕がく。わたも出す。それから、浮嚢うきぶくろかかとでぴちんとつぶす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「そうでねえです。河岸のわた拾いや、立ん坊は大事無いですれど、棄子が分ると引っぱられるでね、獄へ入れられる。それも可えですが、ただ、そうなると、縁の下からも、お孝の声が聞かれんですだよ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「黒味がちじゃ、まぐろわたのようなのが、たらたらたら。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)