腐肉ふにく)” の例文
鳥やねずみねこ死骸しがいが、道ばたやえんしたにころがっていると、またたく間にうじ繁殖はんしょくして腐肉ふにくの最後の一ぺんまできれいにしゃぶりつくして白骨はっこつ羽毛うもうのみを残す。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いやなお、どこかに生をぬすんでいる限り、窒息ちっそくの苦悩をしながら腐肉ふにくを抱えているものにすぎない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上彦太郎とお袖は幼馴染をさななじみで、今でも清らかな逢引を續けてゐると知つて、腐肉ふにくのやうな色餓鬼いろがきの市十郎は、彦太郎の清純さが憎くてたまらず、無智の狂信者をだましてゐる
やうや三組みくみ役人やくにんかほそろうて、いざ檢死けんしといふとき醫師いしとして中田玄竹なかだげんちく出張しゆつちやうすることになつた。流石さすが職掌柄しよくしやうがらとて玄竹げんちくすこしも死體したい臭氣しうきかんじないふうで、こもした腐肉ふにくこまかに檢案けんあんした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
焔の街をつっ走って来た両足うらの腐肉ふにく
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
「ほとんど腐肉ふにくようきたす」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
腐肉ふにくにまとふ温気うんきのみ。
ねたみ (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
虫の中でも人間に評判のよくないものの随一ずいいちうじである。「蛆虫めら」というのは最高度の軽侮けいぶを意味するエピセットである。これはかれらが腐肉ふにく糞堆ふんたいをその定住の楽土らくどとしているからであろう。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山科では、死馬の腐肉ふにくにたかっている飢民きみんがあった。木の実をさがす幽鬼のような山林の人影もみな避難民なのであろう。三条河原は屍臭にみち、全市はあらかた灰の野ッ原と黒い枯木の骨だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)