脳溢血のういっけつ)” の例文
それから半年後に、父は(脳溢血のういっけつのため)ペテルブルグでくなった。母やわたしを連れて、そこへ引移ったばかりのところだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ただね、軽い脳溢血のういっけつの気味があるようだとか、それから、脈がどうだとか、こうだとか、何だかいろいろ言っていたけど忘れちゃったわ。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
書いてるうちに脳溢血のういっけつを起こしかけたほど苦心を重ねたものだった。それを彼は天才的な作品だと無理に思い込もうとしていた。
同仁どうじん病院長山井博士の説によれば、忍野氏は昨夏脳溢血のういっけつわずらい、三日間人事不省じんじふせいなりしより、爾来じらい多少精神に異常を呈せるものならんと言う。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここ一年とちょっとのうちに、元子は二人ものきょうだいを、失っていた。姉の方はながいわずらいののち、そして弟はあっというまの脳溢血のういっけつだった。
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
加世子はその一月の二日に脳溢血のういっけつたおれたのだったが、その前の年の秋に、一度、健康そうにふとった葉子が久しぶりにひょっこり姿を現わした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父親は岩見沢の警察の老朽ろうきゅうの巡査であったが、おすぎが二十三の年に脳溢血のういっけつで死んだ。母親はその二年前に死んでいた。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
脳溢血のういっけつで倒れたのでもあったら、へたに動かしたらたいへんなことになると思って、そのままそっとゆかに寝かしたまま、しずかに、三人を呼び起こした。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、その記者は脳溢血のういっけつのような病気で、三日ばかりして歿くなった。これは市川猿之助の実話をそのまま。
怪談会の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
父は定雄の二十五歳のときに京城けいじょう脳溢血のういっけつのためにたおれたので、定雄は父の死に目にも逢っていなかった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
中風といえば脳溢血のういっけつ其他からの不仁の病、痛風はリウマチス、猶馬痺風ばひふうだの何だのと云うのもあって、病とか邪気とかいうのと同じ位の広い意味を有して居て
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしは爺さんがいつも酔ったような赤ら顔に油汗をかき、梯子段はしごだんの上り下りも退儀そうであった様子から、脳溢血のういっけつか何かで倒れたものと、勝手な考方かんがえかたをした。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それはそのお婆さんがある日上がりかまちから座敷の長火鉢の方へあがって行きかけたまま脳溢血のういっけつかなにかで死んでしまったというので非常にあっけない話であったが
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
俺のおやじが脳溢血のういっけつで倒れたのだ。さいわい生命はとりとめたが、いつ危険状態に陥るか分らない。それで俺の兄貴が俺の行方を探し回って、慷堂のところにも行ったのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
大正十四年の十二月に五十四歳で脳溢血のういっけつたおれた父も短命と云えないことはないが、母は大正六年に三十七歳の若さでくなったのであった、———と、そう思って見て幸子は
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
早い話が僕の家は両隣りが会社員だ。片一方はビールを醸造じょうぞうして同胞どうほう酩酊めいていさせるけれど、もう一方は飲み過ぎて脳溢血のういっけつを起しても損の行かないように、生命保険を引受けてくれる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは畑で土を打っていたお高がとつぜん倒れて死んだのである、脳溢血のういっけつというのであろう、ぱたっと倒れて大きな溜息ためいきをもらしたと思ったら、それでもう十万億土へ旅立ってしまった。
電話がかかって来て、「脳溢血のういっけつで、けさから昏睡こんすい状態です」というのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
昨年十月、軽微なる脳溢血のういっけつにかゝり、病後はじめて出席したる句会。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
しかし、生活ぶりが、華手はでだったので、一昨年脳溢血のういっけつで死んだときは、金はいくらも残っていなかった。そして華手な生活ぶりと、金の事を気にしないルーズな性格とだけが遺族の上に遺されていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
家内かないのものは軽症の脳溢血のういっけつと思い違えて、すぐその手当をした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「肺臓麻痺まひを伴う脳溢血のういっけつ」之が医師の診断であった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「きのうの朝歿くなられたです。脳溢血のういっけつだと云うことですが、……じゃ金曜日までに作って来て下さい。ちょうどあさっての朝までにですね。」
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
病気は脳溢血のういっけつで、倒れると同時に意識をうしない、ほんの二時間ばかりして死んだ。——知らせを聞いて、夜も更けていたが、正篤が駆けつけて来たとき、すでに勘右衛門の息は絶えていた。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と云うのは外でもなく、郷里の母が脳溢血のういっけつで突然ってしまったことです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「御存知なかったですか? 脳溢血のういっけつです」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おれ脳溢血のういっけつで逝くのだ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
同仁どうじん病院長山井博士やまいはかせ診断しんだんに従えば、半三郎の死因は脳溢血のういっけつである。が、半三郎自身は不幸にも脳溢血とは思っていない。第一死んだとも思っていない。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三菱みつびし会社員忍野半三郎は脳溢血のういっけつのために頓死とんししたのである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)