肩肱かたひじ)” の例文
遠山勘解由はまだ忿懣ふんまんがおさまらないとみえ、肩肱かたひじを張ってむっとふくれていた。甲斐は兵部といっしょに立ち、いっしょに廊下を歩いていった。
これはまるでムキ出しな浪人伝法ろうにんでんぽう。一角ほど肩肱かたひじは張らないが、その代りに、黙って刀が先にものをいいそうだ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麻は冷たい、さっくりとしてはだにも着かず、肩肱かたひじ凜々りりしく武張ぶばったが、中背でせたのが、薄ら寒そうな扮装なり、襟を引合わせているので物優しいのに、細面ほそおもてで色が白い。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一向平気で肩肱かたひじを張り、「さあさあ奥村、お前の番だ!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そう四角張ってないで、はかまでもぬぎませんか」八束は冷笑しながら、「——肩肱かたひじをいからしていても、此処ではべつに仰天する者はいませんからね」
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いや一諾の、信義のと、肩肱かたひじった理窟りくつばかりではない。きずのある玉も、身に帯び馴れれば捨てかねる。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親まさりの爪尖尋常に白脛しらはぎからんだままと横に投出した、肩肱かたひじ処々ところどころ、黒土に汚れたるに、車夫等が乱暴のあとが見えて、鈴かと見える目はすずしく、胸のあたりにはりはあるが
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも善かれ悪かれ決戦ときめたいくさである、誰にしてもこの合戦におくれることはできないにちがいない。みんな肩肱かたひじを張って侃々かんかんとののしり叫んだ。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真面目な話にえいもさめたか、愛吉は肩肱かたひじ内端うちはにして、見るとさみしそうであわれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、猛り立ったつら文句もんく、いずれも、こじり大地へつく程な長刀ながものを差し、肩肱かたひじいからしている七、八人連れは、山手組の武家侠客、深見重左の身内であろうと、まわりの見物が囁いていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……いつぞや力んだ考えかたをしすぎると申上げたが、それは独り身をとおそうという気持が根になって、些細ささいなことにもすぐ肩肱かたひじを張る癖がついているからです。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あい、おかしくッてうござんした。ここいらじゃあ尾鰭おひれを振って、肩肱かたひじいからしそうな年上なのを二人まで、手もなく追帰おッかえしたなあ大出来だ、ちょいとあおいでやりたいわねえ、滝さんお手柄。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鋸屑おがくずを着けている材木屋、上方流れの安芸人やすげいにん肩肱かたひじを突ッ張っている無法者、井戸掘りらしいひとかたまりの労働者、それとふざけている売笑婦、僧侶、虚無僧——そして武蔵のような牢人者。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めの一通は江戸をこきおろしたもので、冷静な畠中にも似ず、肩肱かたひじを張った文字で埋まっていた。——天秤棒てんびんぼうで盤台を担いだ魚屋の二人れが、町を突っ走っていくという。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、あの人のことですから肩肱かたひじってこう問いつめたものらしいのです
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)