美人たおやめ)” の例文
そして、その人、その時、はた明を待つまでもない、この美人たおやめの手、一たび我に触れなば、立処たちどころにその唄を聞き得るであろうと思った。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨が二階家にかいやの方からかかって来た。音ばかりして草も濡らさず、裾があって、みちかようようである。美人たおやめれいさそわれたろう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静岡県……なにがし……校長、島山理学士の夫人菅子すがこ、英吉がかつて、脱兎だっとのごとし、と評した美人たおやめはこれであったか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……其だと蔵屋の人数にんずばかりでは手が廻りかねる。時とすると、ぜん、家具、蒲団ふとんなどまで、此方こっちから持運もちはこぶのだ、と云ふのが、頃刻しばらくして美人たおやめの話で分つた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やや傾けたる丸髷まげかざりの中差の、鼈甲べっこうの色たらたらと、打向う、洋燈ランプの光透通って、かんばせの月も映ろうばかり。この美人たおやめは、秋山氏、蔦子つたこという、同姓たもつの令夫人。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人たおやめのこの姿は、浅草海苔のりと、洗髪と、おきゃんと、婀娜あだと、(飛んだりねたり。)もちょっと交って、江戸の名物の一つであるが、この露地ばかり蛇目傘じゃのめの下の柳腰は
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
抱合って、目を見交わして、姉妹きょうだい美人たおやめは、身をさかさまに崖に投じた。あわれ、蔦にかずらとどまった、道子と菅子が色ある残懐なごりは、滅びたる世の海の底に、珊瑚さんごの砕けしに異ならず。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふとどこともなく立顕たちあらわれた、世にもすごいまで美しいおんなの手から、一通玉章たまずさを秘めた文箱ふばこことずかって来て、ここなる池で、かつて暗示された、別な美人たおやめが受取りに出たような気がしてならぬ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人たおやめは其の横に、机を控へて、行燈あんどうかたわらに、せなを細く、もすそをすらりと、なよやかに薄い絹の掻巻かいまきを肩から羽織はおつて、両袖りょうそでを下へ忘れた、そうの手を包んだ友染ゆうぜんで、清らかなうなじから頬杖ほおづえいて
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
美人たおやめあらためて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)