総角あげまき)” の例文
旧字:總角
事実に触れるでもなく書かれてある総角あげまきの姫君の字の美しさに、やはり自分はこの人を忘れ果てることはできないであろうと薫は思った。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「途方もなき玄蕃かな。勝家、今日まで、一度も不覚を取らず、敵に総角あげまきを見せたこともなきに。……ああ、ぜひもなや」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
総角あげまき十文字じゅうもんじひしかにうろこ、それにも真行草しんぎょうそうの三通りずつ有った。流儀々々の細説は、写本に成って家に伝わっていた。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
大人のやうに背のひよろ高いのもあれば、海老茶色の毛糸の長い羽織の紐を総角あげまきのやうに胸に結んでゐるのもあつた。一目見て上級の生徒である事が知れた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お察しの通りです。わたしはこいをしているのです。でもそれは奇妙きみょうな恋でございます。お聞きください。わたしと女とは小さい頭を総角あげまきにゆっているころから知りあっていました。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
この界隈かいわいのお河童や、がっそうや、総角あげまきや、かぶろや、よだれくりであって、少々遠慮をして、蓆の周囲に立ちながら相好そうごうをくずしているのは皆、それらの秀才と淑女の父兄保護者連なのであります。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
総角あげまきのころから国漢文をよくして父君を驚かせた才女である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
青萱に朝は流らふ日の光また総角あげまきのうつら蝶追ふ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
結び上げた総角あげまき(組み紐の結んだかたまり)のふさ御簾みすの端から、几帳きちょうのほころびをとおして見えたので、薫はそれとうなずいた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
またお供の李逵りきといえば、これは道者の稚子ちごと化けて、バサラ髪を二つに分けた総角あげまきい、着物は短褐たんかつという袖無しの短いはかま、それへあみの細ヒモ締めて、足は元来の黒い素はだし
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
総角あげまきの唐子、唐子よ
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
中の君はそっと物蔭ものかげへ隠れてしまったのであったから、ただ一人床上に横たわっている総角あげまきの病女王のそばへ寄って薫は
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかもまだ総角あげまきの一少年が、諸侯といえども畏れをもつ大坂城へ初めて臨んで、自分の前で、この大言をなすことよ——と、秀吉は、弁次郎の使者振りを、一しおうい奴と見入りながら云った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
総角あげまきの唐子、唐子よ
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
野路のみち山路やまみち景色けしきを見ても、薫が宇治へ来始めたころからのことばかりがいろいろと思われ、総角あげまきの姫君の死を悲しみ続けて目ざす家へ弁は着いた。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
盛りの美しさを備えた人が、いろいろな物思いのために少し面痩おもやせのしたのもかえって貴女きじょらしいえんな趣の添ったように見え、総角あげまきの姫君にもよく似ていた。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夫人の居室に侍している女房たちに見られぬように、上手じょうずに顔の隠れるようにしてすわっていた。ものの言いようなども総角あげまきの姫君に怪しいまでよく似ているのであった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しいて身体からだを起こさせると、姫君は美しい形に扇で顔をさし隠しながら、恥ずかしそうにあたりを見まわした目つきなどは総角あげまきの姫君を思い出させるのに十分であったが
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
表はおおかた総角あげまきの姫君と死別した尽きもせぬ悲しみを話題にしているのであった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
尼は総角あげまきの姫君のことを話し出し
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)