箴言しんげん)” の例文
すこし休息するのが自然のおきてだ(こう言われて八等官は、この分署長は先哲の残した箴言しんげんになかなか詳しいんだなと見てとった。)
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
君の作品に於いても、根強い一つの思想があるのに、君は、それを未だに自覚していないのです。次の箴言しんげんを知っていますか。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
正造は一読、二読、自分にとって実に適切な箴言しんげんだと思った。しかも目にみる父の手跡をとおして父の情が測々と胸に沁みてくる思いだった。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
その三十九書中、はじめの十七書は歴史、おわりの十七書は預言、そしてその間の五書すなわちヨブ記、詩篇、箴言しんげん、伝道之書、雅歌は心霊的教訓である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
イヴに禁断の果実を与えた楽園の蛇の故事に呼応して、東洋のいにしえにも次の箴言しんげんがある。曰く「智慧出でて大偽あり」と。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
太古の哲人の箴言しんげん風なおもかげがあって、聴いているうちは、その間だけそれに充たされている感じがし、聴いてしまったあとは何も気にもならず
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
妙な友達同志だつたに相違ない——まつたく古い箴言しんげんにある「兩極端は一致す。」といふ穿うがつた文句のまゝである。
それは、「秘密は群衆の中で行なうべし」とか、「最上の隠し方は見せびらかすにあり」とかいう、最も賢い悪人の箴言しんげんに一致していたのかもしれない。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
沈黙を守るにかず、無用の言を吐くとも舌に及ばずで、たちまち不測の害をかもすことになる、注意すべきは言葉であるという道徳の箴言しんげんに類した句である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
都合が悪いときは、箴言しんげんまで担ぎだして、一歩も譲らないってんだ。身勝手で、訳がわからないのは山川家のモードなんだから、君なんかの歯のたつ相手じゃない。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こういう箴言しんげんが壁の一所に、掲げられていなければ不似合いである。——と、そんなように思われるほど、この部屋は陰気で悲し気で、他界的で気味が悪かった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の最も愛する東洋の詩人オーマア・カイアムの箴言しんげんがこのみ仏にも余韻しているのではなかろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
然し私は今日迄本といつては、国民読本こくみんとくほんと旧約聖書の箴言しんげんしか読んだ事がありませんから、この二つの本に無い文句なら、私の拵へたものとしても差支ない筈です。
モラリスト風の箴言しんげんを吐漏して、そのノートを埋めてやりたい気にもなったが、芋を食いながら箴言を吐くのも気がさすし、ここは一つ古川柳でゆきたいところだが
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
一人の科学者にとってはこれ以上にとおと箴言しんげんはない。そして科学者として立とうとしている以上、今後は文学などに未練をつな姑息こそくを自分に許すまいと決心したのだった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
トレスタイヨン(訳者注 過激王党の首領の一人)は世に高名となった。オルセー河岸の兵営の正面に太陽をかたどった石の光線のうちには、多頭制に劣らずの箴言しんげんが再び現われた。
大斎期おおものいみの際くらいのものであった、約百記ヨブきを好んで読んだが、またどこからか『きよき父イサーク・シーリン』の箴言しんげんや教訓の写しを手に入れて、しんぼうづよく長年のあいだ読み続けたが
この尊敬すべき大家の謙遜けんそんな言葉は今の科学で何事でもわかるはずだと考えるような迷信者に対する箴言しんげんであると同時に、また私のいわゆる「化け物」の存在を許す認容の言葉であるかとも思う。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
きくものは文学上の箴言しんげんのように考える場合があった。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
箴言しんげん、警句の筆者として知られていた。
一時、わすれていたのですが、こんど、あなたから、「エホバをおそるるは知識の本なり。」という箴言しんげんを教えていただいて愕然がくぜんとしたのでした。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
泰文はでたらめな箴言しんげんに勿体をつけるつもりか、拍手かしわでをうって花世の女陰ほとを拝んだり、御幣ごへいで腹を撫でたり、たわけのかぎりをつくしていたが、おいおい夏がかってくると
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
精神は言語の中に住む、という考え方が「文は人なり」という箴言しんげんを生んだのだが、さらに進んでわれわれの不注意な眼は、しばしば「言語すなわち精神である」と錯覚することがある。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
君臨せんがために王位を捨つる、それが修道院制の箴言しんげんであるように思われる。
第八十段にディレッタンティズムに対する箴言しんげんがある。「人ごとに、我が身にうとき事をのみぞこのめる」云々の条は、まことに自分のような浮気ものへのよいいましめであって、これは相当に耳が痛い。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おりにかないてかたことばぎん彫刻物ほりものきん林檎りんごめたるがごとし、という聖書の箴言しんげんを思い出し、こんな優しいお母さまを持っている自分の幸福を、つくづく神さまに感謝した。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「世俗のことは十字架に対しては何でもありません。シャルトルーズ派の十一番目の会長であったマルタンは次の箴言しんげんをその派に与えられました。世の変転を通じて十字架は立つなり。」
この一ギリシャ人の箴言しんげんはヨーロッパ文明を花咲かせるとともに、その桎梏しっこくともなった。この標石に身をもってぶつかり、その彼方の土を踏んだ人間は、アルチュウル・ランボオただ一人である。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)