竹格子たけごうし)” の例文
縁側えんがわへ腰をかけたりして、勝手な出放題を並べていると、時々向うの芸者屋の竹格子たけごうしの窓から、「今日こんちは」などと声をかけられたりする。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
苦界くがい十年親のために身を売りたる遊女が絵姿えすがたはわれを泣かしむ。竹格子たけごうしの窓によりて唯だ茫然ぼうぜんと流るる水を眺むる芸者の姿はわれを喜ばしむ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
路次の中へ路次が通じて迷図めいずのように紛糾した処には、一二年前まで私娼のいた竹格子たけごうしの附いた小家こいえが雑然とのきを並べていたが、今は皆禁止せられて、わずかに残った家は
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、伊太夫を見送って、竹格子たけごうしの外へ、のっそり顔を出した乞食こじきがあった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今まで広いところで育ったのに、庭というほどのものもなく、往来に向いた竹格子たけごうしの窓から、いつも外ばかりながめていました。目に触れる何もかも珍しくて、飽きるということがありません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
人通りの少い竪川たてかわ河岸を二つ目の方へ一町ばかり行くと、左官屋と荒物屋との間にはさまって、竹格子たけごうしの窓のついた、煤だらけの格子戸造りが一軒ある——それがあの神下しの婆の家だと聞いた時には
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
竹格子たけごうしを通じて瑠璃るりいろの空が笑っている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
苦界くがい十年親のために身を売りたる遊女が絵姿えすがたはわれを泣かしむ。竹格子たけごうしの窓によりて唯だ茫然ぼうぜんと流るる水をながむる芸者の姿はわれを喜ばしむ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
部屋の内が薄暗くなると、寒いのを思い切って、窓障子まどしょうじを明け放ったものである。その時窓の真下のうちの、竹格子たけごうしの奥に若い娘がぼんやり立っている事があった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹格子たけごうしの窓には朝顔の鉢が置いてあったり、風鈴ふうりんの吊されたところもあったほどで、向三軒両鄰むこうさんげんりょうどなり、長屋の人たちはいずれも東京の場末に生れ育って
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うららかな春日はるびが丸窓の竹格子たけごうしを黒く染め抜いた様子を見ると、世の中に不思議と云うもののひそむ余地はなさそうだ。神秘は十万億土じゅうまんおくどへ帰って、三途さんずかわ向側むこうがわへ渡ったのだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
菊植ゆるまがきまたはかわやの窓の竹格子たけごうしなぞの損じたるをみずから庭の竹藪より竹切来きりきたりて結びつくろふたわむれもまた家をそとなる白馬銀鞍はくばぎんあん公子こうしたちが知る所にあらざるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでも竹格子たけごうしのあいだから鼻を出すくらいにして、暗い所をながめていた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹格子たけごうしの裏窓を明けると箕輪田圃みのわたんぼから続いて小塚原こずかっぱらあかりが見える河岸店かしみせの二階に、種員は昨日きのう午過ひるすぎから長き日を短く暮すとこの内、引廻した屏風びょうぶのかげに明六あけむツならぬ暮の鐘。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)