空樽あきだる)” の例文
店は二十人もはいれるだろうか、暗くて湿っぽい土間に長い飯台が二つ、それを囲んで空樽あきだるに薄い蒲団を置いたものが並べてある。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
このときし地下室をのぞいていた者があったとしたら、すみんだ空樽あきだるの山がすこし変にじれているのに気がついたであろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
茂吉は例の空樽あきだるの上から、手燭を持つて來ました。手頃な蝋燭らふそくが一本立つて居りますが、それは三分の二ほど殘して吹き消されて居ります。
空樽あきだるの腰掛だね、こちとらだって夏向は恐れまさ、あのそら一膳飯屋から、横っちょに駆出したのが若様なんです。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諺に言葉多きはしな少なしと言い、西洋にも空樽あきだるを叩けば声高しとの語あり。愚者の多言もとより厭う可し。況して婦人は静にして奥ゆかしきこそ頼母たのもしけれ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
醤油の空樽あきだるにどっかと腰かけて、ごっつい植木屋バサミで、枝豆をシャキシャキと枝から切り落している。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
赤い封蝋ふうろうと青い封蝋をちゃんと見分けられるしね。僕が空樽あきだるを売ると、そいつは僕の収入みいりになるんだぜ。兎の皮だってそうだよ。おかねはおかあさんに預けとくんだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
犬は、その空樽あきだるを鯨におやりなさいと言いました。ウイリイはそれも片はしからなげてやりました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大小の丸太、角材、板、空樽あきだるなどが、夜のまに流れついていた。これは、われらの龍睡丸りゅうすいまるが、くだけて、ばらばらになって、乗りあげた暗礁あんしょうから、流されてきたのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
「また空樽あきだるが三ツえるわけかい。ま、乗んなよ。骨が折れるのは、わしではない、馬だからね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町中を流れる黒ずんだ水が見える。空樽あきだるかついでおかから荷舟へ通う人が見える。竈河岸へっついがしに添うてはすに樽屋の店も見える。何もかも捨吉に取っては親しみの深いものばかりだ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「奴が俺達の酒宴に媚を呈して大酒を浴びた魂胆は、内心空樽あきだるの数を唱へて勘定書の高を増さうといふ考へだつたんださうなんだよ。何処まで屈辱を知らぬジユウなんだらうな。」
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その足で彼は、番人どもがめいめい持場もちばについているかどうかと、倉庫を見まわりに出かけたが、番人どもはちゃんと四隅よすみに立って、木の杓子しゃくしで鉄板がわりの小さい空樽あきだるたたいていた。
(熊藏は眼かづらを取る。娘三はうけ取りて眼かづらをかけ、空樽あきだるをさげる。)
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
おれが飯屋へ飛び込んで空樽あきだるに腰掛けるのもそれだ。
太つて「空樽あきだる」と云はれる人
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ウイリイはその仕度したくがすっかり出来ますと、すぐに犬と一しょに船へ乗って出ていきました。やはり前と同じように、魚たちはうじ虫をもらい、鯨は空樽あきだるをもらいました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
平次は店の中から空樽あきだるを一梃持出して、それを踏臺に、輪飾りを直してやりました。
伊織はもう、物置へ入って、空樽あきだるを庭へ持ち出している。そして梅の樹を仰いだ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて近江屋へ帰って、敷石を奥へ入ると、酒の空樽あきだる、漬ものおけなどがはみ出した、物置の戸口に、石屋が居て、コトコトと石を切る音が、先刻期待した小鳥の骨をたたくのと同一であった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は店の中から空樽あきだるを一挺持出して、それを踏台に、輪飾りを直してやりました。
空樽あきだるを積んで街道を行くから馬車を先に見かけて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)