おさな)” の例文
やはり何んとしても私は「何を申そうにもまだ姫は大へんおさないので、そうおっしゃられるとまるで夢みたいな気がいたす程ですから——」
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いつも陣地を守ってだけはいて、おさない Neugierde と余計な負けじ魂との為めに、おりおり不必要な衝突をしたに過ぎない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは昔彼女の父が不幸のなかでどんなにひどく彼女をいじめたか、母はよくその話をするのであるが、すると私はおさない母の姿を空想しながら涙を流し
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
奇獄小説に読む人の胸のみいためむとする世に、一巻のおさな物語を著す。これも人真似まねせぬ一流のこころなるべし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
おさない時私はよくかういふ子守唄をきかされた、さうして恐ろしい夜の闇にをびえながら、乳母の背中せなかから手を出して例の首の赤い螢を握りしめた時私はどんなに好奇の心に顫へたであらう。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
久しく忘れてゐた詞だ。少年の頃よくおさない詩を作つた折に屡々しば/\使つた詞だ。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
佐々木氏の曾祖母そうそぼおさなかりしころ友だちと庭にて遊びてありしに、三本ばかりある胡桃くるみの木の間より、真赤まっかなる顔したる男の子の顔見えたり。これは川童なりしとなり。今もその胡桃大木にてあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おさない方は、両手にふなべりつかまりながら、これも裸の肩で躍って、だぶりだぶりだぶりだぶりと同一おなじ処にもう一艘、渚にもやった親船らしい、を操る児の丈より高い、他の舷へ波を浴びせて、ヤッシッシ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おさなかった昔の羅衣うすものに身を包もうとして
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おさなかった世の記念かたみの感情が、1585
まあ頭の君も撫子がこんなにおさない事がお分りになりさえすればと、おかしい位に思って、さしあたり返事はどうしようかと迷っていたが
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かかる時にうつろふものは、人の心の花なり。数知らぬ苦しき事は、わがおさなき心に、早く世の人を憎ましめき。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
男の子で温柔おとなしくしているのもあった。おさない線が石墨で路に描かれていた。——堯はふと、これはどこかで見たことのある情景だと思った。不意に心が揺れた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
かたわらの船も、おさないものも、おもうにこの親の子なのであろう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おさない頃多くの夢を小さい胸に抱いてあずまから上って来たことのある逢坂の山を、女は二十年後に再び越えて往った。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この時新に中小姓になって中屋敷に勤める矢川文一郎やがわぶんいちろうというものがあって、おさない成善の世話をしてくれた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おさないときの古ぼけた写真のなかに、残っていた日向ひなたのような弱陽が物象を照らしていた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
福山侯の家来成斎が、いかに幕府の奥医師の子を尊敬しなくてはならなかったかという、当年の階級制度の画図がとが、あきらかおさない成善の目前に展開せられたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いままだ自分はおさなくて、容貌もよくはないが、もっとおとなになったら、髪などもずっと長くなり、容貌も上がって、そういう女達のようにもなれるかも知れないなどと
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おさない堯は捕鼠器ほそきに入った鼠を川に漬けに行った。透明な水のなかで鼠は左右に金網を伝い、それは空気のなかでのように見えた。やがて鼠は網目の一つへ鼻を突っ込んだまま動かなくなった。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
然るに保さんはおさない時からこれをることを喜んで、この年の春場所をも、初日から五日目まで一日もかさずに見舞った。さてその六日目が伊沢の祝宴であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼が急に思いがけず自分のおさない頃死んだ母のなんとなくけた顔をぼんやりと思い浮べた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しばしありておさなき姫、さきの罪あがなはむとやおもひけむ、「されどかの君の軍服は上も下もくろければイイダや好みたまはむ、」といふを聞きて、黒き衣の姫振向きてにらみぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おさなしと笑いたまわんが、寺に入らん日はいかにうれしからまし」見上げたる目には涙満ちたり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
筆に任せて書きしるしつる紀行文日ごとに幾千言をかなしけん、当時の新聞に載せられて、世の人にもてはやされしかど、今日になりておもえば、おさなき思想、身のほど知らぬ放言
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
或はまた迷信の霧に理性をとざされていて、こわい物見たさのおさない好奇心に動かされて来たりするのを、あの血糸の通っている、マリショオな、デモニックなようにも見れば見られる目で
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おさなき心に思い計りしがごとく、政治家になるべき特科のあるびょうもあらず、これかかれかと心迷いながらも、二、三の法家の講筵こうえんつらなることにおもい定めて、謝金を収め、きて聴きつ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)