磽确こうかく)” の例文
縦令たといこの地域は狭隘きょうあいであり磽确こうかくであっても厳として独立した一つの王国であった。椿岳は実にこの椿岳国という新らしい王国の主人であった。
彼の不屈の精神はこの磽确こうかくの荒野にあっても、なお法華経の行者、祖国の護持者としての使命とほこりとを失わなかった。
炎のからんだように腰の布がくれないに裂けて、素裸すはだであろう、黒髪ばかりみののごとく乱れた、むくろをのせた、きしり、わだちとどろき、磽确こうかくたる石径を舞上って
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
開墾するには余りに磽确こうかくである是等これらの高い平原は、牧場としてより外に人間との交渉は絶無に近い、稀には峠越の路が通じていることもあるにはあるが。
高原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ミヤマオダマキがうす紫の花をむらがして、岩角に立っているのが、色彩が鮮やかで、こんな寒い雪や氷の、磽确こうかくな土地も、深碧の空と対映して、熱帯的トロピカルに見えた。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「どうも土地が磽确こうかくですな。虎杖の生えたところはろくな地味じゃありませんよ。」とA博士。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
風の激しさ。水の冷たさ。はしけの揺れ。海鳥の叫。そういうもの迄がありありと感じられるのだ。突然胸をかれるような気がした。磽确こうかくたるスコットランドの山々、ヒースの茂み。湖。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ず予が先年寒中滞岳中の状況を叙述して、いささか参考に供する所あらんとす、既に人の知る如く、富士山巓は一枚だになき、極めて磽确こうかくなる土地なれば、越年八つきかんの準備は
木戸から、寺男の皺面しわづらが、墓地下で口をあけて、もうわめき、冷めし草履のれたもので、これは磽确こうかくたるみちは踏まない。草土手を踏んで横ざまに、そばへ来た。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
磽确こうかくな土地と荒れた住家と生気に乏しい人間とに接して、私が勝手に想像していた美しい山村の幻影は忽ち破られてしまった。此処では馬鈴薯が常食だそうである。
奥秩父 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かん武帝ぶてい天漢てんかん二年秋九月、騎都尉きとい李陵りりょうは歩卒五千を率い、辺塞遮虜鄣へんさいしゃりょしょうを発して北へ向かった。阿爾泰アルタイ山脈の東南端が戈壁沙漠ゴビさばくに没せんとする辺の磽确こうかくたる丘陵地帯を縫って北行すること三十日。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
馬二頭が、鼻あらしを霜夜にふつふつと吹いてく囃子屋台を真中まんなかに、磽确こうかくたる石ころみちを、坂なりに、大師みちのいろはの辻のあたりから、次第さがりに人なだれを打って来た。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぐるり山の鼻を左に廻って、小さな峡流をなしている広河内の橋を渡り、大豆などの作られた磽确こうかくな畑の中を通り抜け、雑木林を出つ入りつ、飽きる程長い単調な路を二時間余も進んだ。
絶壁の磽确こうかくたる如く、壁に雨漏の線が入つたところに、すらりとかゝつた、目覚めざめるばかり色好いろよきぬかか住居すまいに似合ない余りの思ひがけなさに、おうな通力つうりき枯野かれのたちま深山みやまに変じて、こゝに蓑の滝、壁のいわお
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)