砂埃すなほこり)” の例文
あの砂埃すなほこりの中を水際立って、駈け抜けるように、そりゃ綺麗だったと云うのだ。立留って見送ると、この内の角へ車を下ろしたろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東国では砂埃すなほこりをスナッポコリという様に、ことさらに促音を入れて呼ぶ例が多いけれども、上方かみがたにはそんな例は少い。
「エタ」名義考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
九百八十六部の「夢みつつ」は札幌さつぽろの或物置小屋の砂埃すなほこりの中に積み上げてあつた。が、それはしばらくだつた。彼の詩集は女たちの手に無数の紙袋かみぶくろに変り出した。
詩集 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男は砂埃すなほこりでざらつきそうな赤い毛と、日に焼けて生涯しょうがいめっこない強い色をっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その拍子ひょうしに長い叫び声が、もう一度頭上の空気をいた。彼は思わず首をちぢめながら、砂埃すなほこりの立つのを避けるためか、手巾ハンカチに鼻をおおっていた、田口たぐち一等卒に声をかけた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みぎ一體いつたい牛頭ごづ馬頭めづの、あの、誰方どなた御存ごぞんじの——たれ御存ごぞんじなものですか——牛頭ごづおにざうがあつたが、砂埃すなほこりまみれたうへへ、かほ半分はんぶん、べたりとしやぼんをながしたやうに
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
をとこ砂埃すなほこりでざらつきさうなあかと、けて生涯しやうがいめつこないつよいろつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
延享えんきょう四年三月の末である。門の外では、生暖なまあたたかい風が、桜の花と砂埃すなほこりとを、一つに武者窓へふきつけている。林右衛門は、その風の中に立って、もう一応、往来の右左を見廻した。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その窓を見向いた片頬かたほに、さっ砂埃すなほこりく影がさして、雑所は眉をひそめた。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとそこへ村の方から、馬にまたがった騎兵が一人、ひづめ砂埃すなほこりを巻き揚げて来た。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)