“瞑(ふさ)” の例文
眼を瞑(ふさ)ぎいし十兵衛は、その時例の濁声(だみごえ)出し、喧(やかま)しいわお浪、黙っていよ、我(おれ)の話しの邪魔になる、親方様聞いて下され。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
陶器師(すえものし)は返事をしなかった。ゆるゆると彼は寝そべった。右手を敷いて枕とし、左手を脇腹へ自然に置き、唇を閉じ眼を瞑(ふさ)ぎ、寂然(せきぜん)として聞いていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
然(さ)うした身(み)にも、生命(いのち)の惜(をし)さに、言(い)はれた通(とほ)りに目(め)を瞑(ふさ)ぎました後(あと)は、裾(すそ)が渦(うづ)のやうに足(あし)に煽(あふ)つて搦(から)みつきますのと、兩方(りやうはう)の耳(みゝ)が風(かぜ)に當(あた)つて、飄々(へう/\)と鳴(な)りましたのばかりを覺(おぼ)えて居(を)ります。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
眼(め)を瞑(ふさ)げば生憎(あいにく)にお辰の面影あり/\と、涙さしぐみて、分疏(いいわけ)したき風情、何処(どこ)に憎い所なし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お蔦 そんなら、……でも、可恐(こわ)いから、目を瞑(ふさ)いで。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一刀(いっとう)削(けずり)ては暫(しばら)く茫然(ぼうぜん)と眼(め)を瞑(ふさ)げば花漬(はなづけ)めせと矯音(きょうおん)を洩(もら)す口元の愛らしき工合(ぐあい)、オヽそれ/\と影を促(とら)えて再(また)一(ひ)ト刀(かたな)、一ト鑿(のみ)突いては跡ずさりして眺(なが)めながら、幾日の恩愛扶(たす)けられたり扶けたり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)