まぼ)” の例文
時刻は暮に近い頃だったから、日の色はかわらにもむねにも射さないで、まぼしい局部もなく、総体が粛然しゅくぜんかまびすしい十字のまちの上に超越していた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たまの日曜にこうしてゆっくり空を見るだけでもだいぶ違うなと思いながら、まゆを寄せて、ぎらぎらする日をしばらく見つめていたが、まぼしくなったので
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
左右の店はことごとく明るかった。代助はまぼしそうに、電気燈の少ない横町へ曲った。江戸川のふちへ出た時、暗い風がかすかに吹いた。黒い桜の葉が少し動いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
左右さゆうみせは悉くあかるかつた。代助はまぼしさうに、電気燈のすくない横町へまがつた。江戸川のふちた時、くらい風がかすかにいた。くろさくらの葉が少しうごいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もう少しで美禰子の手に自分の手が触れる所で、馬尻ばけつ蹴爪けつまづいた。大きなおとがする。漸くの事で戸を一枚けると、強い日がまともにし込んだ。まぼしい位である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
豊三郎は婆さんの顔を見た。その顔はあおくむくんでいる。婆さんはれぼったいまぶちの奥から細い眼を出して、まぼしそうに豊三郎を見上げた。豊三郎は急に自分の眼を机の上に落した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たまの日曜にちえううしてゆつくりそらだけでも大分だいぶちがふなとおもひながら、まゆせて、ぎら/\する少時しばらく見詰みつめてゐたが、まぼしくなつたので、今度こんどはぐるりと寐返ねがへりをして障子しやうじはういた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)