甲府こうふ)” の例文
「しかしまたことによると、このたち擒人とりことなっている咲耶子を助けだそうという考えで、この甲府こうふ潜伏せんぷくしているようにも考える」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして甲府こうふの町へ小屋をったときには、「曲馬団のトッテンカン」という評判ひょうばんだけで、見物人は毎日ぞくぞくとおしよせて来ました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
東京の三鷹みたかの住居を爆弾でこわされたので、妻の里の甲府こうふへ、一家は移住した。甲府の妻の実家には、妻の妹がひとりで住んでいたのである。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「忘れたよ、平次。奥でも生きておれば、また何か思い付くことがあるかも知れないが、その頃私は甲府こうふの御勤番でな」
「駄目ですね。新宿が近いのですが、よくありませんね。むし甲府こうふ方面へ出ます。この鼻緒商売はなおしょうばいも、不景気知らずの昔とは、大分違って来たようですね」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甲府こうふまで乗り、富士見ふじみまで乗って行くうちに、私たちは山の上に残っている激しい冬を感じて来た。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下性げしょうが悪くって寐小便ねしょうべんの始末に困った事だの、すべてそうした顛末てんまつを、飽きるほどくわしく述べた中に、甲府こうふとかにいる親類の裁判官が、月々彼女に金を送ってくれるので
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その大迂回だいうかいの為めに、乗替えの度に時間をとり、甲府こうふへついた頃にはもう日が暮れかけていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
第二信は、ある日白が縄をぬけて、赤沢君のうちから約四里甲府こうふの停車場まで帰路きろを探がしたと云う事を報じた。しかし甲府からは汽車である。甲府から東へは帰り様がなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから甲斐一国の都会みやこ甲府こうふに行きつくのだ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もっと微細にわたれば、綱吉将軍のお世つぎに、老公は甲府こうふどのをおすすめになり、将軍家のご意中では、紀伊きいどのを望んでおられた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四方しほうやまかこまれた甲府こうふの町のことですから、九月になるともう山颪やまおろしの秋風が立ち、大きなテントの屋根は、ばさりばさりと風にあおられていました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
甲府こうふ市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾しょういだんでまるやけになったので、私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、津軽つがるの私の生れた家に行かざるを得なくなった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
川手氏を甲府こうふの近くの山中の一軒家へかくまったことは、先日お話した通りですが、あれ程用心に用心を重ねて連れて行ったのに、どうしてこんなことになったのか、殆んど想像もつきません。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっとも、蛾次郎がじろうの身にとってみれば、甲府こうふじょう安危あんきよりは、この独楽一が大事かも知れない。だれか、かれを悪童あくどうとよぶものぞ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲府こうふ市の郊外に一箇月六円五十銭の家賃の、最小の家を借りて住み、二百円ばかりの印税を貯金して誰とも逢わず、午後の四時頃から湯豆腐でお酒を悠々ゆうゆうと飲んでいたあの頃である。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
家康いえやす家来けらい大久保長安おおくぼながやす、あれはいま甲府こうふの民を苦しめている悪い代官だいかん、その手勢てぜいとたたかうことは、父や兄妹きょうだいあだに向かうもおなじことです
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲府こうふのまちはずれに八畳、三畳、一畳という草庵そうあんを借り、こっそり隠れるように住みこみ、下手な小説あくせく書きすすめていたのであるが、この甲府のまち、どこへ行っても犬がいる。
「水戸のご隠居には、ご在職中から、甲府こうふ綱豊つなとよさまをようし、あなたのご意中は、紀伊きい綱教つなのりさまにありました」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駿府すんぷの今川家の使者がここや岡崎や、小田原おだわら甲府こうふなどへ頻繁に往来しているのでも、或る筋が読めた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)