父様ととさま)” の例文
旧字:父樣
相かはらず父様ととさまの御機嫌、母の気をはかりて、我身をない物にして上杉家の安穏をはかりぬれど、ほころびが切れてはむづかし。
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母様かかさま痛いよ/\ぼう父様ととさまはまだえらないかえ、げんちゃんがつから痛いよ、ととの無いのは犬の子だってぶつから痛いよ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奥様も順でいなさりやすから昨夜よんべお暇いただいて来やしたのえ、父様ととさま母様かかさまも、眼の中さあ入れたいほど様子で居なさる。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
父様ととさまにも春彦どのにもめられようぞ。わたしはいやじゃ、いやになった。(投げ出すように砧を捨つ)
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我が母なるお艶の、お妾さまといはるる身なるが、情けなく恥づかしという事も分り。せめては金三を父様ととさまと呼ばるるが勿躰なけれど嬉しき事に思ひて、日を送りしに。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
千代 とほいい、遠いい、父様ととさまや、ばば様、ぢぢ様の国にまゐりたいといふて泣く。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
父様ととさまあ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おんなつかしさ少時しばしも忘れずいずれ近きうち父様ととさまに申しあげやがて朝夕ちょうせき御前様おまえさま御傍おそばらるゝよう神かけて祈りりなどと我をうれしがらせし事憎し憎しと、うらみ眼尻まなじり鋭く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つくづく思へば無情つれなしとても父様ととさま真実まことのなるに、我れはかなく成りて宜からぬ名を人の耳に伝へれば、残れるはぢが上ならず、勿躰もつたいなき身の覚悟と心のうち詫言わびごとして
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アヽ五日前一生の晴の化粧と鏡に向うた折会うたる我に少しも違わずさて父様ととさまかと早く悟りてすがる少女おとめの利発さ、これにも室香むろかが名残の風情ふぜい忍ばれて心強き子爵も、二十年のむかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつぞは正気にかへりて夢のさめたる如く、父様ととさま母様かかさまといふ折の有りもやすと覚束おぼつかなくも一日ひとひ二日ふつかと待たれぬ、空蝉うつせみはからを見つつもなぐさめつ、あはれかどなる柳に秋風のおと聞えずもがな。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)